映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「エルネスト」

「エルネスト」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年10月7日(土)午後2時40分より鑑賞(スクリーン7/F-08)。

エルネスト・チェ・ゲバラといえば、キューバ革命の英雄。カストロとともに革命キューバ政府の要職に就きながら、再び革命戦争に身を投じて若くして処刑されたこともあり、カリスマ的な人気を誇っている。かくいうオレもゲバラの展覧会に足を運んだり、Tシャツを愛用していたこともある。まあ、見た目もカッコいいからね。

だが、そんなゲバラと関わりのある日系人がいたという事実は、まったく知らなかった。その名はフレディ前村ウルタード。日系2世のボリビア人だ。彼の半生を阪本順治監督が映画化した日本とキューバの合作映画である。

ただし、冒頭からしばらくの間、そのフレディは登場しない。何が描かれるかというと、キューバ革命後にキューバ政府の経済使節団として訪れたゲバラが、日本政府の意向に反して広島を訪れた一件だ。ゲバラは、平和記念公園で献花したほか、原爆資料館に足を運び、被爆者が入院する病院にも足を運ぶ。

おいおい、これはフレディではなく、ゲバラの伝記映画なのか? と思ってしまったのだが、その鍵はゲバラが語った「君たちは、アメリカにこんなひどい目に遭わされて、どうして怒らないんだ」という言葉や、のちに広島の惨状を踏まえて「核戦争に勝者はいない」と語った言葉に集約されるのではないか。ゲバラのそうした常に弱者の側に立つ姿勢にこそ、フレディが共鳴したに違いないという阪本監督の思いを示した構成だと思う。

その後、ようやくフレディが登場する。1962年、彼は仲間とともにボリビアからキューバにやってくる。医師になる夢を持ちつつも、ボリビアでは医大が少なくて入学できず(左翼的思想の持ち主だと判断されたことも理由らしい)、そのためハバナ医大への入学を目指してキューバにやってきたのだ。

そこからは、フレディの青春の日々が描かれる。20歳の彼は、ハバナ大への入学を前に、最高指導者フィデル・カストロ(ロベルト・エスピノサ)によって創立されたヒロン浜勝利医学校で、医学の予備過程を学ぶ。同時に、仲間とともに機関誌を発行するなど様々な活動をする。一方、一緒にボリビアから来てシングルマザーとなった女性に、ほのかな思いを寄せて、彼女と娘を何かとサポートする。

やがてゲバラとの出会いが訪れる。キューバ危機が起きて、フレディたちも学業を中断して軍事訓練に励むことになる。そんな中、1963年の元旦に学校にやってきたゲバラに、フレディは話しかける。「あなたの絶対的自信はどこから?」。ゲバラは「自信とかではなく怒っているんだ、いつも。怒りは、憎しみとは違う。憎しみから始まる戦いは勝てない」と答える。

まもなく母国ボリビアでは軍事クーデターが起きる。フレディは“革命支援隊”への参加を決意し、やがてゲバラから“エルネスト”の戦士名を授けられるのである。

フレディはゲバラのような英雄ではない。学生としても、反政府ゲリラとしても、リーダーではない。日系人ではあるが日本との直接的な関りはない。そんな人物をどう描くのか。

阪本監督はフレディの生き様をひたすら丹念に描きだす。前作「団地」のようなヒネリのきいた作品も多い阪本監督だが、今回は実に正攻法の描き方だ。それを通して見えてくるのは、今の時代には貴重ともいえる「まっすぐに生きた青年」像である。

フレディは、「貧しい人、弱い人を助けたい」という思いのまま、医者を目指し、そしてゲバラに共鳴して反政府ゲリラとなった。途中で思いを寄せる女性とその娘に絡んで、戦いに突き進む葛藤らしきものも描かれるのだが、基本は自分の思いに忠実に生き抜いた男である。それを素晴らしいと思うのか、理想主義すぎると笑うのか、時代遅れだと断じるのかは観客次第だ。

こうしてフレディは、ゲバラらとともにボリビアでのゲリラ戦争に参加する。そして……。ラストでは彼の人生が何だったのか、あらためて考えさせられる。

ゲバラの没後50年の日本・キューバ合作映画ということもあり、いろいろと難しい点もあったと思う。もう少しフレディの心理の奥底に迫って、影の部分などもあぶりだして欲しかった気はするのだが、こうした人物がいたことを知らしめただけでも、十分に価値のある映画ではないだろうか。

オダギリジョーが全編スペイン語で熱演を見せているのも、大きな見どころである。

●今日の映画代、1400円。事前にチケットポート新宿店でムビチケを購入済み。ついでにおまけでクリアファイルをもらいました。

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◆「エルネスト」
(2017年 日本・キューバ)(上映時間2時間4分)
監督・脚本:阪本順治
出演:オダギリジョー永山絢斗、フアン・ミゲル・バレロ・アコスタ、ロベルト・エスピノーサ・セバスコ、ルイス・マヌエル・アルバレス・チャル、アルマンド・ミゲール、ヤスマニ・ラザロ、ダニエル・ロメーロ・ピルダイン、ジゼル・ロミンチャル、アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス、ミリアム・アルメダ・ビレラ、エンリケ・ブノエ・ロドリゲス
*TOHOシネマズ 新宿ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.ernesto.jp/