映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「探偵はBARにいる3」

「探偵はBARにいる3」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年12月2日(土)午後1時55分より鑑賞(スクリーン9/F-12)。

かつて日本テレビ系で放映されていた松田優作主演のテレビドラマ「探偵物語」が大好きだった。基本はハードボイルドながら、コミカルな要素もあり、遊び心満点のドラマだった。テレビドラマではあるものの、映画畑の人々が活躍していたのも印象に残っている。

東直己の小説「ススキノ探偵シリーズ」を大泉洋松田龍平(奇しくも松田優作の息子)の主演で映画化した人気シリーズ「探偵はBARにいる」に、そんな「探偵物語」と同じ香りを感じてしまうのはオレだけだろうか。こちらもハードボイルドを基本にしつつ、笑い、スリル、感動をほど良くブレンドしているのが魅力だ。

前作「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」から4年ぶりのシリーズ第3弾「探偵はBARにいる3」の登場である。今回は監督が前2作の橋本一から、「疾風ロンド」の吉田照幸(かつてのNHKの人気バラエティ「サラリーマンNEO」の演出家でもある)に変わったものの、その面白さは不変だ。

今回も主人公は、北海道・札幌の繁華街ススキノのバーを根城にする探偵(大泉洋)。そして、その相棒兼運転手で北大農学部助手の高田(松田龍平)。探偵は凄腕だが、同時に間抜けなところもあり、女にめっぽう弱いのが欠点。車の運転もできない。一方、高田はいつも無表情で冷静だが、ケンカが強くていざという時に頼りになる。

そんな2人が、思わぬことから事件に巻き込まれるのが定番のパターンだ。今回は高田が、後輩の大学生の「行方不明の彼女を捜してほしい」という依頼を受けたことからすべてが始まる。軽い気持ちで、その女子大生・麗子(前田敦子)について調査を始める探偵。

映画の冒頭では、麗子の失踪に関係があるらしい殺人事件が描かれる。いかにもハードボイルドらしい、緊迫した場面である。そして、その直後に登場するのは探偵が、ある事件の真相をピタリと言い当てるシーン。いや、冒頭の殺人事件ではない。「キャバクラでお姉ちゃんのオッパイをもんだのは誰か?」という事件なのだ。思わず拍子抜けするこのユルさも本作の楽しさの源泉だ。スリルと笑いが交互に繰り出される。

まもなく探偵は、麗子がバイトしていたらしいあやしげなモデル事務所にたどり着く。そこの美人オーナー・マリ(北川景子)と出会い、妙な既視感を覚える探偵。マリの背後には、裏社会で暗躍する北城グループ社長・北城仁也(リリー・フランキー)がいた。マリに翻弄されるうちに、探偵は大きな事件に巻き込まれていく。

問題の女子大生・麗子の行方は意外に早くわかってしまう。だが、そこからが大変だ。探偵と高田、マリ、北城が入り乱れて事態は混沌としていく。冒頭とは違うもう一つの殺人事件も起きる。そしてマリは、探偵にある依頼をする。

その過程では、白熱のバトルアクションも何度か飛び出す。最初は、マリに接近した探偵がヤクザにボコボコにされる。その中には、高田すらも歯が立たない使い手もいる。しかし、高田は無傷。なぜかと問う探偵に「キャラじゃねえ?」と高田。相変わらず笑わせてくれるではないか。

笑いの要素には事欠かない。探偵がよく通うエロいウエイトレス(安藤玉恵)がいる喫茶店、なだめすかさないとエンジンがかからない愛車、怖いけれどいざという時には助けてくれるヤクザ(松重豊)、ギブ・アンド・テイクといいつつ探偵にいいように利用される新聞記者(田口トモロワ)など、過去の設定や人物は今回も健在。おかげで無条件に笑わせられるのだ。

このシリーズでは、舞台となる北海道の土地柄もクローズアップされる。今回は北海道日本ハムファイターズに関する話題が飛び出し、クライマックスには何と栗山英樹監督と本物の札幌市長まで登場する。その場所で行われる巨額の麻薬取引と、それに続く大波乱。そして高田が大活躍するバトルアクションへとなだれ込む。ここはスリリングで大いに盛り上がる。

同時に終盤は少しずつ哀調を帯び始める。北城や探偵を手玉に取るマリだが、実は彼女には大きな秘密があったのだ。彼女が金にこだわる理由が最後に明らかにされ、それがそこはかとない感動と哀切につながるのである。

探偵と高田の凸凹コンビぶりには、ますます拍車がかかっている。エンドロール後に披露される高田の留学をめぐる一件にも、それが端的に象徴されている。最後の最後まで笑わせてくれるので、ぜひ最後まで席を立たないで欲しい。

大泉洋松田龍平らおなじみの俳優はもちろんだが、今回は北川景子リリー・フランキーの功績も大きいと思う。リリーの狂気はいつも通りの凄さで、ロシアン・ルーレットがよく似合う。北川が見せる様々な表情も魅力的である。

最初にも述べたが、ハードボイルドを基本にしつつも、笑い、スリル、感動をほど良くブレンドした、安心して楽しめる大人のエンタメ映画である。今どきこういうタイプの映画は珍しい。この先のさらなる続編にもぜひ期待したいところだ。できれば、次回はもう少し驚きが欲しいところではあるが。

●今日の映画代、0円。ユナイテッド・シネマの貯まったポイントにて。

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◆「探偵はBARにいる3」
(2017年 日本)(上映時間2時間2分)
監督:吉田照幸
出演:大泉洋松田龍平北川景子前田敦子鈴木砂羽リリー・フランキー田口トモロヲ、志尊淳、マギー、安藤玉恵正名僕蔵篠井英介松重豊野間口徹天山広吉片桐竜次
*丸の内TOEIほかにて全国公開中
ホームページ http://www.tantei-bar.com/