映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「パーティで女の子に話しかけるには」

パーティで女の子に話しかけるには
ヒューマントラストシネマ渋谷にて。2017年12月3日(日)午後1時55分より鑑賞(シアター1/D-12)。

オフ・ブロードウェイでロングランヒットとなったロック・ミュージカルを映画化した2001年製作のアメリカ映画「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」は、素晴らしい映画だった。あまりの素晴らしさに即サントラ盤を購入したほどだ。性転換手術を受けてロックシンガーとなった主人公の半生を描いたドラマで、監督・脚本・主演を務めたのは舞台版と同じジョン・キャメロン・ミッチェルである。

そのジョン・キャメロン・ミッチェルが監督・脚本を担当した新作映画「パーティで女の子に話しかけるには」が公開になった。ニール・ゲイマンの短編小説の映画化だ。地球人の男の子と異星人の女の子の淡いロマンスで、それ自体は珍しい話ではないものの、それを「パンクロック」と結びつけているのがユニークである。

舞台は1977年のロンドン郊外。パンクロックが大好きな高校生のエン(アレックス・シャープ)は、ある日、ライブの帰りに仲間とともに打ち上げパーティに参加しようと思ったものの道に迷い、不思議な音楽が聞こえる家に入っていく。そこで繰り広げられているのは、奇妙な服を着た人々による謎のパーティ。実は、それは地球にやってきた異星人たちによるパーティだったのである。

冒頭からしばらくはパンクロックが全開で流れる。それに乗ってエンや仲間たちの姿が、荒々しい映像で描かれる。続いて、異星人たちのパーティシーンでは、美しくアートな映像で彼らの不思議な言動を描く。異星人の衣装やダンス、歌なども凝っている。この落差で一気にスクリーンに引き込まれてしまった。

しかし、エンたちは彼らが異星人だなどとは夢にも思わない。彼らをアメリカ人だと思い込む。そして、エンはそこで美少女のザン(エル・ファニング)と出会う。

というわけで、エンとザンの初々しいロマンスが瑞々しく描かれていく。そこで効いてくるのが、ザンが規則だらけの生活に反抗して、街に飛び出すという設定だ。異星人の指導者たちは、「個性を尊重する」とうたいながらも、みんなの自由を束縛する。ザンはそれに反抗して、エンが語るパンクに興味を持ち、パーティを抜け出してエンと一緒に街へ繰り出すのである。

これぞまさにパンク精神に沿った行動だ。この映画は、パンクを単なるファッションとして扱うのではなく、反逆の音楽という核心をきちんと突いている。さすがにロック音楽を知り尽くしたミッチェル監督だけある。

そのハイライトは、ザンがパンクロックのゴッドマザーともいうべき女ボス(ニコール・キッドマン)によって、無理やりステージに上げられて、そこでエンとともに思いっきりシャウトするシーンだ。このシーンだけで、2人の様々な思いが伝わってくるのである。

この映画には、笑いの要素もあちこちにある。地球人と異星人との間の噛みあわない会話などが、そこはかとないおかしさを醸し出していく。異星人が地球人に行う奇妙な性的行為なども、シュールで笑える。

急速に親しくなるエンとザンだが、ザンが地球にいられる時間は残り48時間しかない。それもまた2人の恋に切なさを漂わせる、

パンク精神が炸裂する場面は後半もある。実は異星人たちには、ある習慣が存在する。指導者によれば、それは環境破壊などの現状を踏まえて企図されたもののようだ。そのあたりの異星人の事情には、地球の現状も投影されているのかもしれない。

しかし、その行為は彼らをカルト宗教と勘違いしたパンクロッカーたちに非難され、過激な攻撃を受けてしまう。これもまたパンクロッカーたちのパンク精神ゆえの行動だろう。さらに、その問題をめぐって異星人内部の対立も起きてしまうのだ。

そして、ザンの身にも大きな変化が起きて、彼女は決断を迫られる。ザンは地球に残るのか。それとも宇宙へ飛び立つのか。2人の思いが交錯するラスト近くのシーンは、切なさが最高潮に達するのである。

そして最後に登場するのは、15年後を描いた後日談。さりげないサプライズに、心がホッコリさせられる。なかなかあと味の良いエンディングだった。

さすがにパンクロックが重要なアイテムとして使われるだけに、全編に流れる音楽も素晴らしい。77年当時の楽曲に加え、この映画のために結成されたバンドによるオリジナルナンバーが耳に残る。

エンを演じたアレックス・シャープは、トニー賞主演男優賞を最年少で受賞したそうだが、その初々しい演技が際立つ。そしてザンを演じたのはご存知エル・ファニング。彼女の透明感のある演技があればこそ、この風変わりな恋愛ドラマが風変わりなだけで終わらなかったのだと思う。あんな子が異星人なら、異星人に恋するのも悪くはない。

パンクロックに彩られた、キラキラして、切ないラブストーリー。単なるSF青春ラブストーリーの枠を超えて、普遍的な恋愛ドラマとして胸に響いてきたのである。

●今日の映画代、1300円。TCGメンバーズカードの会員料金にて。

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◆「パーティで女の子に話しかけるには」(HOW TO TALK TO GIRLS AT PARTIES)
(2017年 イギリス・アメリカ)(上映時間1時間43分)
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:エル・ファニング、アレックス・シャープ、ルース・ウィルソン、マット・ルーカス、ニコール・キッドマンジョアンナ・スキャンラン、スティーヴン・キャンベル・ムーア、ララ・ピーク、トム・ブルック、ジョーイ・アンサー、アリス・サンダーズ、イーサン・ローレンス、A・J・ルイス、ジャメイン・ハンター
新宿ピカデリーヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ http://gaga.ne.jp/girlsatparties/