映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「モリーズ・ゲーム」

モリーズ・ゲーム
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年5月11日(金)午後2時40分より鑑賞(スクリーン7/F-8)。

「よ! 男前」
女性でも、そう声をかけたくなるようなカッコいい人がいるものだ。最近の映画では、「女神の見えざる手」でジェシカ・チャステインが演じた剛腕ロビイストなどは、まさにそうした女性だった。

そのジェシカ・チャステインが、再びカッコいい女を演じたのが「モリーズ・ゲーム」(MOLLY’S GAME)(2017年 アメリカ)である。「ソーシャル・ネットワーク」「スティーブ・ジョブズ」などの脚本家アーロン・ソーキンが初めて監督を務めた映画(もちろん脚本も)。実話をもとに、ある一人の女性の波乱の半生を描いている。

最初に登場するのはスキーの大会。モーグルのトップ選手として活躍していたモリー・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)が、五輪の国内予選に出場するのだ。厳しい指導で彼女を鍛えた父(ケヴィン・コスナー)の見守る中、スタートするモリー。幼い頃に背骨の手術をしながら奇跡の復帰を果たした彼女の視線の先には、もちろん五輪のメダルがある。だが、ちょっとしたアクシデントでモリーは転倒し、重傷を負ってしまう。

続いて場面は12年後に移る。なんとモリーFBIによって逮捕されてしまうのだ。いったい何があったのか。そこに至るまでの過去の出来事がモリーの独白によって描かれる。同時に、逮捕から裁判に至るまでのリアルタイムのドラマが、彼女と弁護士(イドリス・エルバ)との関係を中心に描かれる。

例の事故によって選手生命を絶たれたモリーは、学業も優秀だったことから、ロースクールへ進学して法律家を目指すことを考える。その前に1年間の休暇をとろうとロサンゼルスにやってきたことが、彼女の人生を大きく変える。

現地のお金持ちたちが湯水のごとく金を使う現場を目撃するモリー。そんな中、ひょんなことからハリウッドスターやビジネス界の大物が高額を賭けて遊ぶ闇ポーカー・ゲームで、彼女はアシスタントを経験するようになる。その経験をもとに、やがてモリーは自ら高額闇ポーカーの経営者となる。

こうして闇ポーカーで成り上がるモリーの姿がテンポよく描かれる回想パート。そこで特徴的なのが、まるで洪水のように飛び交う大量のセリフだ。普通、これだけセリフが多いと観ている方は消化不良を起こしがちなのだが、リズミカルで気のきいたセリフばかりなのでほとんど違和感を感じない。むしろ、心地よささえ感じてしまうから不思議なものだ。

特に面白かったのが、モリーがあの手この手で闇ポーカーを繁盛させるところ。そのあまりにも巧妙な手口は、やり手のビジネスマンを連想させる。観ているうちに、「オレも闇ポーカーが運営できんじゃね?」と思ってしまいそうなほど説得力満点だ(もちろんそんなことしませんけど)。

同時に、そこに出入りする様々な人々の人間模様も浮かび上がる。ハリウッドスター、ロックスター、映画監督、ラッパー、ボクサー……。ポーカーがヘタなくせに熱くなるヤツや、連戦連勝だったものの一度負けたのをきっかけに転落する男など、それぞれの勝負と人生が怪しくクロスして様々な陰影を生み出していくのである。

何しろポーカーは騙し合いのゲームだから、そこに人間心理の微妙なアヤが見え隠れするのも当然かもしれない。そんなポーカーの魅力と危険性が自然に伝わってくるのも、この映画の面白いところだ。

それにしても、モリーを演じるジェシカ・チャステインのカッコよさよ! 「女神の見えざる手」同様に、猪突猛進型の強い女性を巧みに演じている。自分を安く売ることなく、しなやかにしたたかに成功を勝ち取っていくモリー。その凛々しさが観客の心を躍らせる。

だが、そんなモリーにもピンチが訪れる。ロスで仕事ができなくなった彼女は、今度はニューヨークに移って、闇ポーカーを始める。そこでもあの手この手で成り上がっていくのだが、次第に運命の歯車が狂いだす。薬に手を出し、ポーカーで手数料を取るようになり(そうすると違法になるらしい)、ロシアンマフィアが客になるに至って彼女の転落が決定的になる。

だが、FBIに逮捕された後も彼女はひるまない。当局は、罪を軽くする代わりに顧客の情報を提供するように要求するのだが、モリーはそれを拒否する。彼女にとって闇ポーカーは、たまたま足を踏み入れた世界であり、夢や思い入れとは無縁の世界だろう。おまけに後半ではそれによって危険な目にまであってしまう。それでも自分の手で他人の人生を翻弄するようなことは、絶対にしたくなかったに違いない。自分にとって譲れない一線を守るその潔い姿勢が、またしても彼女をカッコよく見せるのである。

その一件を通して、当初はお互いにギクシャクしていたモリーと弁護士との間に、心の通い合いのようなものも見えてくる。2人の掛け合いの中で、アーサー・ミラーの戯曲「るつぼ」を効果的に使うあたりも、なかなか凝った脚本だ。弁護士を演じるイドリス・エルバの懐の深い演技も印象深い。

その一方で、モリーと父親との葛藤が十分に描き切れていないように思えたのだが、それに関してはラスト近くに大きなヤマ場が用意されていた。2人の再会を通して、モリーの父親に対するわだかまりの原因が明らかにされ、彼女の行動の源泉が見えてくる。強い女性に見えたモリーにも弱さは存在していたのだ。それが浮き彫りになることで、ますます彼女が魅力的に見えてくる。

ラストの裁判の結末については、ちょっと出来過ぎの感がある(いくら実話がベースとはいえ)。それでも、そのことをきっかけに彼女の新たな人生を示唆したラストが心地よい。モリーの人生は、スキー場で事故に遭ったあの時に戻り、そこから再スタートを切るのである。今度こそは、行きがかりではなく、主体的に選択した進路に足を踏み出すべく。

マーク・ザッカーバーグスティーブ・ジョブズなど超個性的な人物を描いてきただけに、アーロン・ソーキンの脚本が素晴らしい。が、それ以上に目を引くのがやっぱりジェシカ・チャステイン。「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」の動物園長の妻のような今回とは違った役どころも演じるだけに、今後の活躍がますます楽しみになった。

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◆「モリーズ・ゲーム」(MOLLY’S GAME)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間20分)
監督:アーロン・ソーキン
出演:ジェシカ・チャステインイドリス・エルバケヴィン・コスナーマイケル・セラ、ジェレミー・ストロング、クリス・オダウド、ビル・キャンプ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://mollysgame.jp/

 

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