映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「友罪」

友罪
池袋シネマ・ロサにて。2018年5月26日(土)午後12時10より鑑賞(シネマ・ロサ1/D-10)。

最近の日本映画には、観客に様々な問いを投げかけたり、重たい余韻を残す作品が少ないような気がするのだが、それはオレの思い込みだろうか。もちろん底抜けに楽しい映画や、カタルシスを味わえる映画も嫌いではないのだが、そればかりというのもなんだか寂しい気がするのだ。

そんな中、登場したのが「友罪」(2017年 日本)である。薬丸岳の同名小説を瀬々敬久監督が自ら脚本も手掛けて映画化した。これぞまさに、重たい余韻を残すヘヴィー級の作品だ。

冒頭に登場する工場。そこで元雑誌記者の益田(生田斗真)が働き始める。彼は同じ日に入った鈴木(瑛太)という男と出会う。鈴木は初めから黒い影を背負い、感情を押し殺して行動する。他人との交流も拒んでいるようだ。そして、夜になるとうなされる。どう考えても、心に傷を抱えた人物である。

一方、益田もワケあり風だ。同じ寮に暮らす鈴木がうなされるのを聞きながら、益田もまたうなされる。そう。彼もまた心に傷があったのだ。そんな心の傷が共振したのか、2人は少しずつ距離を縮めていく。

だが、そんな中、近くの町で児童殺害事件が起きる。世間では、17年前に起きた連続児童殺傷事件との類似性が噂される。当時14歳だった犯人の「少年A」は、すでに出所していた。

益田はネットに載っていた少年Aの写真を見て愕然とする。それは鈴木とよく似た少年だった。益田は鈴木が「少年A」ではないかと疑いを抱き、調査を始める……。

全編を重苦しい空気が支配する映画だ。身近にいる人間が犯罪者ではないかと疑念を持つ映画は、過去にもよく見られた(最近では吉田大八監督の「羊の木」など)。だが、この映画で取り上げられている犯罪は、凶悪な連続児童殺傷事件。しかも、犯人は14歳の少年だ。それだけに衝撃は大きい。

瀬々監督は手持ちカメラの映像なども多用しながら、益田や鈴木たちの心理を繊細に切り取っていく。決して仰々しい表現ではない。むしろ抑制的な表現である。だが、それだからこそリアルだ。あまりのリアルさに、時には胸苦しささえ覚えてしまう。

しかも、描かれるのは益田と鈴木のエピソードだけではない。鈴木に好意を寄せる元AV女優の美代子(夏帆)、かつて医療少年院で鈴木を担当した教官の白石(富田靖子)、息子が起こした交通事故の遺族に罪を償い続ける山内(佐藤浩市)らのエピソードも配し、そうした人々の苦悩をスクリーンに刻み付けていく。

それらを通して突きつけられるテーマは、「罪」あるいは「贖罪」である。罪を償うということはどういうことなのか。罪を犯した人間は許されないのか。観客に重たい問いが投げかけられる。同時に、家庭を壊し娘との関係を悪化させた白石、家族を解散した山内の姿などを通して、家族や親子関係の問題にまで踏み込んでいく。

「罪」といえば、瀬々監督の4時間を超す大作「ヘヴンズ ストーリー」とも通底するテーマだ。あちらは被害者側の復讐心に焦点を当てていたが、そういう点で本作と表裏一体の関係にあるといえるかもしれない。

ただし、これだけ多くのエピソードを詰め込むことには、賛否両論ありそうだ。さすがに2時間少しの映画では、個々のエピソードを深化させるのは困難だろう。できればこの映画も、「ヘヴンズ ストーリー」ぐらいの長尺で撮って欲しかった気はするが、さすがにそれは無理な注文か。少なくとも、複数のエピソードを交錯させることで、テーマ性を強く浮き彫りにすることには成功していると思う。

おかげで濃密すぎる2時間9分だ。一瞬も緩みがない。印象的なシーンも数々あるが、中でも益田と鈴木が公園で本音をぶつけ合うシーンが胸を打つ。そこで鈴木は益田に「それでも生きたい」と吐露する。罪の意識を抱え、自らを殺そうとする場面もある彼だけに、その言葉が痛切に響く。

少年院で仲間に襲いかかった少年に対して白石が「人が死んだら、その人の存在がなくなるんだよ」と叫ぶシーンも印象深い。その後に描かれる彼女と娘との対面シーンを含めて、「生」と「死」という根源的な問題にまで、思いをめぐらせずにはいられない。

というわけで、重たい映画ではあるものの、ラストには微かな希望の灯らしきものも見える。もがき苦しむ益田と鈴木の先にあるもの。それは絶望だけではないはずだ。

この映画の素晴らしさはキャストの演技にもある。生田斗真瑛太はそれぞれの揺れ動く心理を、セリフ以外の部分で表現していく。そして、夏帆富田靖子佐藤浩市をはじめ、青木崇高忍成修吾西田尚美村上淳光石研らの芸達者な脇役陣の演技も素晴らしい。

観終わって感じたのは、人間は罪(法律的な罪に限らず)を重ねながら生きる苦難に満ちた存在だということ。そして、それでもきっと寄り添う人がいてくれるということだ。安易な解決法などは示されない作品だけに、映画を通して投げかけられた問いを、オレたちはしっかりと抱えながら、明日を生きていくしかないのである。

それにしても、最近の瀬々監督はハイペースで作品を送り出している。「64-ロクヨン-前編・後編」(2016)、「なりゆきな魂、」(2017) 「最低。」(2017)「8年越しの花嫁」(2017)。瀬々監督、働きすぎです!(笑)

そして、来たる7月7日には構想30年という力作「菊とギロチン」が公開予定。ますます楽しみになってきた次第である。

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◆「友罪
(2017年 日本)(上映時間2時間9分)
監督・脚本:瀬々敬久
出演:生田斗真瑛太夏帆山本美月富田靖子、奥野瑛太、飯田芳、小市慢太郎矢島健一青木崇高忍成修吾西田尚美村上淳片岡礼子石田法嗣北浦愛、坂井真紀、古舘寛治宇野祥平大西信満渡辺真起子光石研佐藤浩市
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://gaga.ne.jp/yuzai/