「THE GUILTY/ギルティ」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2019年2月22日(金)午後1時10分より鑑賞(スクリーン9/D-12)。
~音だけを頼りに事件を追う異色のサスペンス
数年前にAKBのラジオドラマを書いていた時にあらためて思ったのだが、音の世界はなかなかに奥深い。映像がなくても、いろいろなことを想起させるのだ。
そんな音の持つ特徴を十二分に生かしたのが、デンマーク映画「THE GUILTY/ギルティ」(DEN SKYLDIGE)(2018年 デンマーク)である。舞台となるのは緊急通報指令室のみ。いわゆるワンシチュエーションのドラマだ。
主人公はアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)という男。緊急通報指令室(日本の110番や119番のようなものらしい)のオペレーターとして働き、電話を使って救急車やパトカーの手配などを行っていた。だが、彼はただのオペレーターではないことが冒頭からチラチラと示唆される。
どうやら彼は元は警察官として現捜査にあたっていたものの、何らかのトラブルによって現場を外され、オペレーターとして働いているようだ。ただし、そのトラブルに関する裁判が明日行われ、それを乗り切れば現場に復帰できるらしい。
そんな中、1本の電話がかかる。今まさに誘拐されているという女性が、車の中からかけてきた電話だ。女性はイーベンと名乗った。彼女のそばには誘拐犯がいて、子供に電話をするふりをして携帯で電話をしてきたのだ。
この電話をきっかけに、アスガーは誘拐事件の解決にあたることになる。とはいえ、頼りになるのは電話だけだ。電話の相手はイーベンに加え、犯人と思しき男、イーベンの留守宅にいる幼い娘、警察の指令センターなど様々に変化する。そこから聞こえる声、周囲の音などをもとに、犯人の特定とイーベンの救出を成し遂げなければならない。
そして、観客もまた映画の中でアスガーと同じ体験をする。観客も電話から聞こえる声や音をもとに、あれこれと想像力をめぐらしていくのだ。
スクリーンに映されるのは緊急指令室のアスガーの姿のみ。にもかかわらず、観客は犯行現場の車の中、被害者や加害者の留守宅など様々な場面を頭の中で思い描く。こうして、想像の力によってスリリングで予想のつかないサスペンスが、構築される仕掛けなのである。これが、本作の最大の魅力である。
中盤、被害者の留守宅に警官が急行し、そこでとんでもない事実が発覚する。事件の様相は、当初描いていたものよりも残忍なものだったのだ。
それを知ったアスガーは、さらに事件にのめり込む。元相棒の警察官に依頼して、加害者宅を家探しさせるなど、オペレーターという職務を越えた行動を取るようになる。さらに、電話越しに秘策を授けてイーベンを車から脱出させようと試みる。
いったいなぜ、彼はそこまで事件にのめり込むのか。その背景には冒頭から示唆されてきた彼にまつわるトラブルがある。詳細は伏せるが、ここでタイトルの「ギルティ=罪」という言葉が大きく意味を持ってくる。それゆえ、暴走に近いアスガーの行動や苛立ちが納得できるものに感じられるのである。
そして、後半にはさらなる驚愕の事実が発覚する。映画の中盤でクッキリと見えたかに思えた事件の全貌。だが、それがガラリとひっくり返されてしまう。観客が抱いていた先入観や固定観念が音をたてて崩れてしまうのだ。え? まさか・・・。これまた実に心憎い仕掛けである。
逆転はラストにも待っている。ある人物の飛び降りを止めるべく、電話越しに説得するアスガー。だが・・・。そこで用意された再度の逆転現象に、思わずうなってしまった。まあ、本当によく考えられた脚本である。
アスガーの最後の行動も味がある。はたして彼は誰に電話をしたのか。これまた観客の想像力を刺激する余韻の残るエンディングである。
監督は本作が長編デビューとなるグスタフ・モーラー。実は、この手の携帯電話を使った映画は「[リミット]」「セルラー」「ザ・コール 緊急通報指令室」など、他にも数々ある。その中で、これだけ斬新に感じられる映画を撮ったのだから、その才気が光る。
なにせワンシチュエーションゆえに、映されるのはほぼアスガーのみ。しかもアップが多い。つまり、彼の一人芝居のようなものなのだ。それだけに、主演のヤコブ・セーダーグレンの演技が光る。同時に、電話の声だけで迫真の場面を示して見せた役者たちの功績も、忘れてはならないだろう。
音を頼りに想像力を刺激される魅力的な作品だ。ぜひスクリーンに集中してご覧あれ。
*チラシが見つからなかったので、映像などはホームページでチェックしてください。ていうか、ポイントは「音」の映画だし・・・。
◆「THE GUILTY/ギルティ」(DEN SKYLDIGE)
(2018年 デンマーク)(上映時間1時間28分)
監督:グスタフ・モーラー
出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー、カティンカ・エヴァース=ヤーンセン
*新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
ホームページ https://guilty-movie.jp/