映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「グリーンブック」

「グリーンブック」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2019年3月3日(日)午後1時45分より鑑賞(スクリーン5/D-12)。

~洗練された黒人ピアニストと粗野な白人運転手の交流の旅

今年の第91回アカデミー賞の作品賞は、アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」が獲得するのではないかという声も多かったようだが、結果はこの「グリーンブック」(GREEN BOOK)(2018年 アメリカ)が獲得した。「ROMA/ローマ」はネットフリックス配信の作品だけに、未加入のオレには鑑賞できないわけで、やっぱり映画は映画館で上映して欲しいよなぁ~。

さて、その「グリーンブック」だが、実によくできた映画である。主要なテーマは人種差別。とはいえ声高なメッセージはなく、コミカルで心温まる友情物語として描いている。

ドラマのスタートは、1962年のアメリカ・ニューヨーク。高級ナイトクラブで用心棒を務めるイタリア系の白人トニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は、改修のために店が閉鎖になり、職を失ってしまう。

そんなトニーのキャラを的確に表現した描写が印象深い。粗野で無教養で喧嘩っ早い男。同時に家族思いでもある。そして周囲の人々と同様に彼は黒人を嫌っている。あからさまな差別ではないが、差別意識は明確だ。家に作業に来た黒人が使ったコップを捨てるシーンが、それを端的に表している。

そのトニーのもとに仕事の話が舞い込む。それは運転手の仕事だった。カーネギーホールに住む黒人ピアニスト、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)が、黒人差別が残る南部での演奏ツアーを計画しており、その運転手を探していたのだ。

当初は雇い主が黒人ということもあり、あまり気乗りしないトニー。一方、シャーリーもトニーを嫌っているかに見えたのだが……。

結局、シャーリーはトニーを雇い、2人は南部への演奏旅行に出る(シャーリーはトリオで演奏するので、残り2人のミュージシャンももう1台の車で移動する)。

ちなみにタイトルの「グリーンブック」とは、差別の激しい南部で黒人が泊まれる宿などを記したガイドブックのことである。トニーは、これを手にハンドルを握る。

というわけで、ここからはトニーとシャーリーによるロード・ムービーとなる。それはバディ(相棒)ムービー的でもある。そこで生きてくるのが、2人のキャラの好対照だ。トニーはすでに述べたように粗野で無教養で喧嘩っ早い男。それに対して、シャーリーは学も教養もあり、洗練された人物。要するに、これまでの映画などでよく描かれてきた黒人と白人のキャラが、逆転しているのである。

この逆転の設定をフルに生かして、たくさんの笑いが飛び出す。フライドチキンを食べたことがないというシャーリーに、その美味さを説き無理に食べさせようとするトニー。さらに、クラシック畑出身でR&Bやロックンロールなどの黒人が好む音楽をまったく知らないシャーリーに、リトル・リチャードやアレサ・フランクリンなどの黒人の音楽を教えてあげる。

一方、シャーリーはトニーの乱暴な言葉遣いを正そうとしたり、トニーが妻に出す手紙の内容をアドバイスする。こうした交流が様々な笑いを生み出し、2人の友情の醸成を自然に見せていく。おかげで、この手のドラマにありがちな嘘くささがほとんど感じられないのだ。

この映画の監督は「メリーに首ったけ」「愛しのローズマリー」などのコメディ映画で、弟のボビー・ファレリーとともに共同監督を務めてきたピーター・ファレリー。単独監督は今回が初めてのようだが、さすがにこうしたコメディはお手のものである。

アカデミー脚本賞を受賞した脚本もよくできている。例えば、先ほどのフライドチキンの話やトニーが所持しているように見せかける銃の話などが、その後のドラマの展開の伏線になっていたりする。何とも心憎い仕掛けである。

時には衝突しながらも、凸凹コンビのようなやり取りを繰り返すうちに距離を縮めていくトニーとシャーリー。だが、そこにはシビアな側面もある。南部の深刻な人種差別が彼らの前に立ちはだかるのだ。

なかでも畑で働く南部の黒人たちが、ハイソな格好に身を固めているシャーリーを、異邦人でも見るように眺め、それをシャーリーが気まずい表情で受け止めるシーンが印象深い。

トニーはシャーリーに対する様々な差別に異議を唱えていく。当初はあくまでも演奏旅行を円滑に進めるべく仕事として対応しているのだが、それがやがて心からの行動となる。ただし、黒人差別に反対するといった大上段の主張ではなく、一人の信頼できる友人に対する差別に怒りを示すのだ。シャーリーも、トニーのその思いを受け止める。

それが象徴されたシーンが終盤に用意されている。楽しそうにピアノを演奏するシャーリー。それを頼もしそうに見ているトニー。2人が交わす笑顔がじんわりと心にしみてきた。

ラストに用意されたクリスマス映画的なエンディングも、これまた心をポカポカさせてくれるはずだ。

正直、甘い話なのは間違いない。人種差別の深刻さを十分に伝えきれていないという批判もあるかもしれない。しかし、これは実話ベースの話なのだ。この映画のプロデュースと共同脚本は、トニー・リップの息子、ニック・バレロンガが務めている。根強い人種差別の残る時代に、こんなに素敵な友情が紡がれていたことは、特筆に値するだろう。誰でも楽しめて、心が温まる良質な映画である。

ドクター・シャーリー役は「ムーンライト」のマハーシャラ・アリ。深みのある演技が光るが、何といってもこの映画で目立つのは、トニー役のヴィゴ・モーテンセンだろう。これまではトンガッた役柄や思索的な役柄が多かった彼だが、そんなイメージを覆す名演だった。この演技だけでも観る価値あり。

*またまたチラシが見つからなかったのだ。おかしいなぁ~。画像&映像は下記公式ホームページでご覧ください。

◆「グリーンブック」(GREEN BOOK)
(2018年 アメリカ)(上映時間2時間10分)
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、ディミテル・D・マリノフ、マイク・ハットン、イクバル・テバ、セバスティアン・マニスカルコ、P・J・バーン、トム・ヴァーチュー、ドン・スターク、ランダル・ゴンザレス
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/greenbook/