映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「国家が破産する日」

「国家が破産する日」
シネマート新宿にて。2019年11月19日(火)午後6時50分より鑑賞(スクリーン1/E-11)。

~韓国の通貨危機をめぐるスリリングな社会派エンターティメント

社会的な問題をエンターティメントで見せるというのは、もはや韓国のお家芸の感がある。最近では、「タクシー運転手 約束は海を越えて」「1987、ある闘いの真実」「工作 黒金星と呼ばれた男」などが、そうしたタイプの映画だった。

そして今回、社会派でありながらエンタメでもある映画がまた新たに誕生した。「国家が破産する日」(DEFAULT)(2018年 韓国)である。1997年の韓国の通貨危機の内幕を、史実をもとにしながら大胆なフィクションを組み合わせて描いた実録経済サスペンスだ。

舞台となるのは1997年の韓国。右肩上がりの経済成長が続き、OECDに加盟するなど韓国にとってはバラ色の日々に思えた。ところが、韓国銀行の通貨政策チーム長ハン・シヒョン(キム・ヘス)は、いち早く通貨危機が迫っていることを予測する。その報告が政府に届くものの、政府の反応は鈍い。ハンは「このことを国民に知らせて被害を最小限に抑えるべきだ」と主張するのだが、政府はそれを無視して国民に知らせることなく、非公開の対策チームを立ち上げる。

こうして正義を貫こうとするハンVS隠蔽に走る政府という対立の構図が、本作のドラマの大きな柱になる。だが、それ以外にも2つの柱になるエピソードがある。その1つは若き金融コンサルタントのユン(ユ・アイン)の一世一代の大勝負である。彼もまたふとしたことから独自に危機を察知し、勤務先の金融会社を辞めて独立し、投資家を集めて大儲けを企む。

そして3つめの柱は町工場の経営者ガプス(ホ・ジュノ)のエピソードだ。彼は「危機などない」という政府の発表を鵜呑みにして、好景気が続くと信じ、大手百貨店からの大量発注を手形決済という条件で受けてしまう。いわば当時の典型的な庶民である。

本作はサスペンスとして一級品のドラマである。ハンと政府の攻防のドラマ、ユンの一攫千金物語、ガプスの転落のドラマがいずれもスリリングに描かれる。そこで効果的なのが、国家破産まで残された時間はわずか7日間しかないという設定だ。そのタイムリミットによって、ドラマにますます切迫感が生まれる。

三者三様の人間模様もきっちりと描かれる。理不尽な政府に翻弄され苦悩するハン、成り上がりの野望の階段を上りつつどこか虚しさも感じるユン、善良さゆえにすべてを失っていくガプス。彼らの思いがリアルに描き込まれている。

中盤以降のドラマの焦点はIMF国際通貨基金)の支援に移る。もしも支援を受ければ、韓国の庶民に苦難の道を強いることになる。ハンはそれにあくまでも反対する。だが、庶民など眼中になく、大企業の生き残りと自分の保身しか考えていない政府の実力者は、無条件にIMFとの合意を押し通そうとする。

韓国政府とIMFとの息詰まるような交渉のプロセスが描かれる。裏でアメリカの意向を反映するなど、設立目的に反するIMFの実態にも斬り込む。それに対してハンは徹底抗戦する。もしもこれが完全なフィクションなら、彼女はこの戦いに勝利し韓国を救ったヒロインになるだろう。だが、本作にそんなカタルシスは存在しない。

終盤、ハンは捨て身である行動に出る。これでいよいよ形勢逆転か!? いやいや、そんなことにはならない。何しろこれは史実をふまえたドラマなのだ。結局、韓国はIMFの支援を受け入れ、それによって豊かなものがますます豊かになり、貧しいものがますます貧しくなったことが告げられる。

本作で描かれたことは、いわば、現在の韓国における格差社会への道筋をつくった出来事ともいえる。だからこそ、チェ・グクヒ監督はじめ作り手は、この映画を世に送り出そうとしたのだろう。単なる過去の出来事ではなく、今の社会にそのままつながるドラマとして。

それを端的に表すのが、最後に登場する20年後の韓国だ。そこで時代は繰り返すこと、いつまた同じようなことが起きるかもしれないことを示し、今の時代とのリンクを確認する。同時に、それでもあきらめないハンの不屈の姿を見せて、微かな希望も提示するのである。

ハン役のキム・ヘスの力強い演技に加え、ユン役のユ・アイン、ガプス役のホ・ジュノのそれぞれの個性を発揮した演技も見事だ。さらに、悪役たちの憎たらしさも、いかにもエンタメ性を持つ映画らしいところ。

そんな中、驚きのキャスティングがIMF専務理事役のヴァンサン・カッセルだ。言わずと知れたフランスの人気俳優。韓国映画初出演とのことだが、圧倒的な存在感で世界を動かす男を演じていた。

それにしても日本でこういう映画ができるだろうか。経済ドラマそのものが少ないし、何よりも政府の行動を批判的に取り上げるようなドラマがタブー視される現状では、難しいのではないかと思ってしまう。日本政府の暴走を描いて大きな話題を集めた「新聞記者」は、まさに社会派+エンタメ映画だったわけだが、それに続く映画は出ないものだろうか。

 

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 ◆「国家が破産する日」(DEFAULT)
(2018年 韓国)(上映時間1時間54分)
監督:チェ・グクヒ
出演:キム・ヘス、ユ・アイン、ホ・ジュノ、チョ・ウジンヴァンサン・カッセル、キム・ホンファ、オム・ヒョソプ、ソン・ヨンチャン、クォン・ヘヒョ、チョ・ハンチョル、リュ・ドックァン、パク・チンジュ、チャン・ソンボム、チョン・ベス、トン・ハ、キム・ミンサン、チョン・ギュス、ハン・ジミン
*シネマート新宿ほかにて公開中
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