映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

第33回東京国際映画祭~その3

引き続き東京国際映画祭で観た映画の感想を書きます。
*各作品の予告映像などは東京国際映画祭のホームページにあります。
https://2020.tiff-jp.net/ja/

・7本目
「蛾の光」
2020年11月5日(木)TOHOシネマズ六本木にて。午後2時50分より鑑賞(スクリーン6)

~声を失った女性ダンサーと老芸術家の交流

シンガポールの監督による東京藝大の修了制作。声なき者の代弁者となるべく話すことをやめ、口がきけなくなった若い女性ダンサーが、引退した老芸術家と文通をする。その交流を通じて母を失った過去と向き合う……。女性ダンサーが話すことをやめた設定ということもあり、セリフではなく映像で多くを物語るドラマ。ラストシーンの海辺でのダンスをはじめ、何度か登場するダンスシーンが圧巻。美しい自然美も印象に残る。時制を行き来し、詳しい説明もないためわかりやすいドラマではないが、まるでアートのような魅力を持った作品。

◆「蛾の光」(LIGHT OF A BURNING MOTH)
(2020年 日本)(上映時間2時間)
監督:リャオ・チエカイ
出演:ハ・ヨンミ、あらい 汎、ただのあっ子

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・8本目
「悪の絵」
2020年11月5日(木)TOHOシネマズ六本木にて。午後5時より鑑賞(スクリーン5)

~死刑囚の絵に魅了された画家

服役中の囚人に絵を指導する耳の不自由な画家。ある日、無差別殺人犯の絵に魅了され展覧会を開くが、世間から大きな非難を浴びてしまう。画家はその殺人犯がかつて弟と遊んだという秘密基地へ足を運んでみるのだが……。前半は犯罪に関する社会派ドラマ的な味わいを持つが、途中からは芸術や作家に関する深いテーマ性を持つ作品へと転化。画家が目撃する衝撃のシーンをはじめ、ホラーやサスペンス的な香りも漂う。序盤とは全く違う終盤の画家の表情や作風が何とも意味深。

◆「悪の絵」(THE PAINTING OF EVIL/惡之畫)
(2020年 台湾)(上映時間1時間22分)
監督:チェン・ヨンチー
出演:イーストン・ドン、リバー・ホァン、エスター・リウ

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・9本目
「デリート・ヒストリー」
2020年11月5日(木)TOHOシネマズ六本木にて。午後6時45分より鑑賞(スクリーン4)

現代社会を痛烈に皮肉った社会派コメディ

フランス郊外の住宅地。妻に先立たれカードローンで苦しむ男、ネットの評価が低い女性タクシー運転手、酒癖が悪く夫が息子を連れて出て行った女性。ネット社会に翻弄され、金銭問題で苦しむ彼らは、どんどん追い詰められ、ついに無謀な作戦を決行する……。現代社会が抱える問題を痛烈に皮肉ったユーモアたっぷりの社会派コメディ。ユニークな人々のおバカな行状に終始笑いっぱなし。GAFAに刃を向けるなど、終盤の無謀な報復作戦の顛末にも爆笑。糸電話を使ったラストシーンも秀逸。ベルリン映画祭銀熊賞受賞作。

◆「デリート・ヒストリー」(DELETE HISTORY/Effacer l'historique)
(2020年 フランス・ベルギー)(上映時間1時間46分)
監督:ブノワ・ドゥレピーヌ、ギュスタヴ・ケルヴェン
出演:ブランシュ・ギャルダン、ドゥニ・ポダリデス、コリンヌ・マジエロ、ヴァンサン・ラコスト

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・10本目
「ある職場」
2020年11月6日(金)TOHOシネマズ六本木にて。午前10時30分より鑑賞(スクリーン6)

~実際のハラスメント事件をもとに日本の今を問う

あるホテルチェーンの女性スタッフが上司にセクハラを受け、それを告発したことから大きな騒ぎになる。その後、その会社の社員たちが江の島の保養所に集まり、被害者を励まそうとするのだが……。実際に起きた出来事をもとに日本のハラスメントの根深さを描く。保養所での従業員たちの議論の様子は、まるでドキュメンタリーのようにリアル。「これ以上事を荒立てても」「あなたにも落ち度があるのではないか」といった被害者をさらに傷つける言動をはじめ、ネットの炎上など社会が抱える問題に真摯に向き合う。観ていて辛くなるところもあるがこれはまさに現実。文句なしの意欲作。

◆「ある職場」
(2020年 日本)(上映時間2時間15分)
監督:舩橋 淳
出演:平井早紀、伊藤恵、山中隆史

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・11本目
「オマールの父」
2020年11月6日(金)TOHOシネマズ六本木にて。午後12時55分より鑑賞(スクリーン5)

パレスチナ人の父とイスラエル人の妊婦の心の交流

イスラエルの病院で亡くなった息子。だが、遺体の搬送費用がない。そこでパレスチナ人の父は遺体をバッグに入れて検問所を通ってパレスチナの家に帰ろうとする。だが、あいにく外出禁止令が出て検問所を通過できない。そんな中、見るに見かねたイスラエル人妊婦が手を差し伸べるのだが……。イスラエルパレスチナの対立という厳しい社会状況を背景に、普段なら触れ合うことのない2人の心の交流を描くロードムービー。さりげないユーモアを交えながら2人を温かく見つめる視点が印象深い。ほろ苦さの残るラストも心にしみる。

◆「オマールの父」(ABU OMAR
(2020年 イスラエル)(上映時間1時間53分)
監督:ロイ・クリスペル
出演:カイス・ナーシェフ、シャニー・ヴェルシク

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・12本目
チンパンジー属」
2020年11月6日(金)TOHOシネマズ六本木にて。午後4時45分より鑑賞(スクリーン5)

~鬼才ラヴ・ディアス監督が人間の愚かさを描きだす

鉱山で働く3人の男が孤島に帰郷する。前半は山の向こうの村に向かう一行を、後半はあることから一人だけ生き残った男が、悪や不正が横行する村で過酷な運命に翻弄される姿を描く。フィリピンの鬼才ラヴ・ディアス監督は長尺映画でおなじみだが、本作は2時間半強と彼にしては短めの作品。それでも密度の濃さは半端ない。「人間の脳はチンパンジーから進化しているのか?」という疑問をベースに、人間の愚かさを「これまでもか!」とあぶり出している。宗教や民俗的(黒い馬の伝説が印象的)な要素もある独自の美学に貫かれた作品。フィリピンのみならず世界の人間たちの愚行を想起させる。

◆「チンパンジー属」(GENUS PAN/Lahi, Hayop)
(2020年 フィリピン)(上映時間2時間37分)
監督:ラヴ・ディアス
出演:ナンディン・ジョセフ、バート・ギンゴナ、DMs・ブーンガリ

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