「AIR/エア」
2023年4月9日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時より鑑賞(スクリーン5/A-15)
~ノリノリの雰囲気の中で小気味よく描かれるエア・ジョーダンの誕生秘話
スポーツシューズには全く詳しくないのだが、そんな私でも知っているのがナイキの「エア・ジョーダン」。ご存じマイケル・ジョーダンの名を冠したシューズで、スポーツの枠を超えてカルチャーにまで影響を及ぼした。
そのエア・ジョーダンの誕生秘話を描いた映画が「AIR/エア」である。監督は「アルゴ」でアカデミー作品賞を受賞したベン・アフレック。そして主演は彼の盟友マット・デイモン。それにしても、このコンビ、本当に仲がいいなぁ。「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」が1997年で、それからもう25年。いや、そもそも幼なじみだっていうんだから。ただし、デイモンがアフレックの監督作に出演するのは、意外にも今回が初めてとのこと。
1984年、シューズメーカーのナイキ本社に勤めるソニー・バッカロ(マット・デイモン)は、CEOのフィル・ナイト(ベン・アフレック)からバスケットボール部門を立て直すように命じられる。しかし、競合ブランドにシェアで大きく水をあけられ、ナイキは知名度で圧倒的に劣っていた。そんな中、ソニーはNBAデビューもしていない無名の新人選手マイケル・ジョーダンに注目し、彼との契約を主張するのだが……。
冒頭はダイアー・ストレイツの「マネー・フォー・ナッシング」が流れる中、80年代当時のニュース映像がテンポよく流れる。これを観ただけで自然に心が湧きたってしまった。それ以降も80年代にヒットした曲が満載。ノリノリの雰囲気の中、ベン・アフレックが小気味よくエア・ジョーダンの誕生にまつわるドラマを描き出す。
序盤は登場人物がひたすら怒鳴りまくる。当時のバスケットシューズはアディダスとコンバースが主流で、ナイキは両社のはるか後塵を拝していた。おまけに、立て直しのためにCEOのフィルに招かれたソニーは、全く成果を出せなかった。バスケット部門は廃止の危機に見舞われる。
新たに若手選手と契約することになっても、誰を候補にするかでモメるばかり。だが、そんな中、ソニーはあるビデオを見ていて思いつく。「こいつはすごい選手じゃないのか?」。
それはNBAデビューもしていない無名の新人選手マイケル・ジョーダンだった。とはいえ、彼はすでにライバルのアディダスとコンバースがから誘われており、しかもナイキが嫌いだという情報が伝わってきた。
それでもソニーは周囲の反対も聞かずに、必死でジョーダンに接近を図る。そこで当然周囲とはケンカになる。ケンカの相手はひと癖もふた癖もある連中。CEOのフィルはランニングシューズが好調なだけに、バスケットには金がかけられないという。ソニーの上司ロブ・ストラッサー(ジェイソン・ベイトマン)も、ジョーダンと契約するのは無理だからやめろと言う。
こうしてポンポンと大量のセリフがやり取りされ、あれやこれやと登場人物が動き回る。ついていくのが大変かと思えば、これがけっこうそうでもないのだ。カメラの切り替えもスムーズで、全体にメリハリがしっかりついているので、乗り遅れずに観続けることができた。これぞアフレック監督の手腕か!?
ただし、いくら何でもこのケンカモードで最後まで行くのはつらいよなぁ。そう思った後半は一転して一致団結の邁進ムード。ソニーは独断でジョーダンの母親に会いに行き、アディダス、コンバースとともにプレゼンの機会を獲得してしまう。
するとそれまで反対していたフィルやロビーも、ソニーに協力するようになるのだ。何を調子のいいことを、と思うかもしれないが、その変化の中に彼らの心情も見えてくるから、思わず納得してしまう。要するに、なんだかんだ言ってもみんなソニーに期待していたし、ソニーが好きなのだ。
その中でも、特に力を発揮するのがシューズ作りの名人。彼が独創的なスタイルのシューズ作りに没頭し、周囲もそれを応援する。NBAの規約に抵触するとわかると、ある秘策でそれに対抗する。このあたりは典型的なお仕事ムービー。ソニーと同僚たちの熱き友情も垣間見れる。
そして、ここでもフィルやロビーの心情が過不足なく描かれる。特にロビーは離婚して離れ離れになった娘への思いを吐露して、ソニーのケツを叩くのである。
ドラマはいよいよクライマックスへ。ナイキのプレゼンは総力戦、かつ巧妙な作戦に基づいたものだったが、最後にソニーがそれを逸脱する。予定外の彼のスピーチがジョーダンと両親に投げかけられる。
そこで、その後のジョーダンの人生を示した映像が流れるのが、この映画最大の仕掛けかもしれない。バスケで大活躍するのはもちろん、野球に挑戦したり、父が銃殺されるなど、ソニーの情熱的な演説にジョーダンの人生がかぶるのだ。
プレゼンの結果はわかっているのに、それでも盛り上げがうまいから思わずハラハラしながら見てしまう。そして、そこでジョーダンの母が要求したことが、現在のスポーツ選手のデフォルトになっているという意外な事実を告げてドラマは終わる。ジョーダンの母を単なる強欲女にはしないのである。
マット・デイモンはいつもながらの存在感。今回は特に強烈かつ複雑なキャラを演じている。疲れた中年男でありながら、いったん決めたら不屈の闘志で前進する。圧巻の演技だった。
そのほかの役者もベン・アフレック、ジェイソン・ベイトマン、ヴィオラ・デイヴィスなどが個性的なキャラを演じていた。ジェイソン・ベイトマンってあんまり印象ないんだけど、いい役者だよなぁ~。
スポーツムービーやお仕事ムービーの要素を込めつつ、心躍るエンタメ映画に仕上げている。私のようにスポーツシューズに詳しくない人も、ちゃ~んと楽しめるはず。
◆「AIR/エア」(AIR)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間52分)
監督・製作:ベン・アフレック
出演:マット・デイモン、ベン・アフレック、ジェイソン・ベイトマン、クリス・メッシーナ、マーロン・ウェイアンズ、クリス・タッカー、ヴィオラ・デイヴィス、マシュー・マー、ジュリアス・テノン、ジョエル・グレッチ、グスタフ・スカルスガルド、バルバラ・スコヴァ、ジェシカ・グリーン、ダン・ブカティンスキー、トム・パパ
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://warnerbros.co.jp/movie/air/
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