映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「アナログ」

「アナログ」
2023年10月9日(月・祝)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン3/E-16)

~アナログでベタベタな恋愛ドラマだが、脚本&演出の妙で見せる

一昨日、赤坂RED/THEATERという劇場で「フラガール‘23」という芝居を観てきた。そう、名作映画「フラガール」の舞台版である。これまでにも何度も舞台化されているが、今回は映画版の脚本を担当した羽原大介の脚本・演出で、自身の劇団「羽原組」での公演。映画で蒼井優が演じた役は、つい最近取り上げた「まなみ100%」のヒロイン・中村守里が演じている。舞台版は映画とはまた違った面白さがあり、特に終盤の中村はじめフラガールたちのダンスは圧巻。あれだけでも観る価値があると思った。公演は15日までとのこと(ちなみに写真はよく撮れていなくて誰が誰だかわかりません(笑))。

さて、映画である。恋愛映画も時代とともにその様相が変化する。恋愛感情そのものは不変でも、それを取り巻く社会状況が変わるのだから当然だろう。そんな中、今どき珍しいタイプの恋愛映画が「アナログ」だ。何と、あのビートたけしが初めて書いたという恋愛小説「アナログ」(未読)を「ホテル ビーナス」「鳩の撃退法」のタカハタ秀太が映画化した。

映画の冒頭にバイオリンの演奏風景が映る。これが実は、後々の大きなネタバラシと関係してくるのだ。

続いて登場する主人公の水島悟(二宮和也)。朝目覚めて、きちんと和食の朝食を用意し、それを食する。ここだけで、悟が真面目ないいヤツであることが伝わる。

悟は建物の内装などを手がけるデザイナーをしている。自身のデザインを上司に横取りされても、文句を言うようなことはない。そして、彼は手描きのデザイン画や手作りの模型を重視する。

悟は、自身が内装を手がけた喫茶店「ピアノ」によく通っている。ある日、そこで小さな商社に勤める謎めいた女性・美春みゆき(波瑠)と出会う。自分と似た価値観のみゆきに惹かれた悟は連絡先を聞くが、彼女は携帯電話を持っていないという。

そこで2人は、毎週木曜日に「ピアノ」で会うことを約束する。お互いに用事があって行けない時には、それでかまわないということにする。こうして悟とみゆきは、毎週木曜の時間を大切にして丁寧に関係を紡いでいく。

デジタル全盛の今の時代にこういうアナログな恋愛を見せられると、逆に新鮮に思えてしまうから不思議なもの。なかなか自分の気持ちを伝えられない悟。何やら謎めいた存在のみゆき。2人の交流が繊細かつ抑制的に描かれていく。そこには、何だかノスタルジックな雰囲気も漂う。

2人の交流を盛り上げる様々な仕掛けもある。2人が最初に食べた料理はジャーマンポテト。みゆきは「ドイツにはジャーマンポテトはない」のだと説明する。それはみゆきの過去とも関係することだった。

次に2人が行ったのは焼き鳥屋。みゆきは今まで焼鳥屋に行ったことがないという。そこで登場するのが、悟の友人の高木(桐谷健太)と山下(浜野謙太)。先客としてその店にいた2人は、悟が嫌がるのを無視して4人で一緒に飲む。

この高木と山下が、実にいい味を出しているのだ。気の置けない男友達で、まさに凸凹コンビ(悟が加わればトリオ)。そのテンポの良い会話が笑いを振りまくとともに、こういう友達がいる悟は良いやつに違いないと思わせる。ベタな恋愛ドラマは苦手な私も、2人の存在がアクセントになってついドラマに見入ってしまった。

その他の仕掛けも抜かりがない。クリスマスツリーに見立てた月をバックにした大木、絵葉書にしたいぐらい美しい夜の海、グーグルマップなしでの街歩き、そして究極のアナログともいえる糸電話での会話。「恋愛ドラマかくあるべし!」とでも言いたくなるような情感たっぷりのシーンが、ここぞというところに配置されている。

ドラマの中盤は、仕事で大阪に行って帰れなかった悟が木曜に「ピアノ」に行けず2人がすれ違ったり、2人で行ったクラシックのコンサートでみゆきが突然泣き出してしまったり、入院していた悟の母が亡くなったりと、色々波乱はあるもののそこも劇的には描かない。実に穏やかなタッチでドラマが進んでいく。

このまま静かなドラマが展開するのかと思いきや、後半は突如として劇的展開に突入! 韓国ドラマも真っ青真なベタベタなドラマが繰り広げられるのだ。

悟はついにプロポーズを決意し、指輪を購入。そして、みゆきを「ピアノ」で待つ。だが、その日、みゆきは来なかった。失意の悟。それから1年後、驚愕の事実が発覚する。

まあ、何があるかは言わないが、みゆきの正体が明かされ、さらに彼女があの日「ピアノ」に来なかった理由と現在の彼女について、詳細が語られるのだ。

「いや~、こんなベタベタでありがちなドラマ、気恥ずかしすぎますぜ」と言いたいところだが、それほどの嫌悪感はない。むしろじわじわと感動がこみ上げてくる。なぜだ?

うーむ、もちろんタカハタ秀太のバランスの良い演出もさることながら、港岳彦(「宮本から君へ」「MOTHER マザー」など)の脚本が抜群にうまいんだよなぁ。実にツボを心得ている。若者から中高年まで誰もが琴線に触れるドラマに仕上げている。だから、わかっていても感動してしまう。ジンワリと心に響いてくる。

でも、まあ、私だったら最後は寸止めにするけどね。ほんのわずかな希望の火を灯して、余韻を残すようにして。

二宮和也と波瑠は、とても良い雰囲気だった。二ノ宮の好青年ぶりと、波瑠の謎の女らしさが絶妙のアンサンブルを生み出していた。桐谷健太、浜野謙太も存在感ある演技。喫茶店のマスター役のリリー・フランキーもいい味を出している。

ここまでベタベタな恋愛映画を見せられると、気恥ずかしくて引いてしまうものだが、絶妙な脚本&演出のせいで、最後まで飽きずに観てしまった。この手のドラマとしてはよく出来ていると思う。恋愛映画が好きな人はなおさら楽しめそう。

◆「アナログ」
(2023年 日本)(上映時間2時間)
監督:タカハタ秀太
出演:二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、藤原丈一郎、坂井真紀、筒井真理子宮川大輔佐津川愛美鈴木浩介板谷由夏、高橋惠子、リリー・フランキー
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://analog-movie.com/

 


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