映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」

「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」
2023年11月3日(金・祝)TOHOシネマズ 池袋にて。午後1時20分より鑑賞(スクリーン4/D-7)

~元アイドルのアラサー女子を癒すおっさん。温かで心地よい映画

しかし、まあ、井浦新の出演作が次々に公開になるなぁ。いまや日本映画の屋台骨を背負う存在と言っても、過言ではないだろう。テレビドラマにもけっこう出ているようだし。まったくもってスゴイ俳優だ。

その井浦新が出演しているのが「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」。原作は元「SDN48」のメンバーで作家として活躍する大木亜希子が、自身の体験を基に描いた小説(タイトルが長いよ~。映画の略称は「#つんドル」だそうです)。それを「月極オトコトモダチ」「シノノメ色の週末」の新鋭の穐山茉由監督が映画化した。

冒頭は、主人公の元アイドルの安希子(深川麻衣)の近況報告(インタビュー?)シーン。アイドルを辞めて会社員となり、仕事もプライベートもとても幸せで充実した日々を送っていることを力説する。

だが、それは真実ではなく自分に言い聞かせていること。現実は、都内の家賃5万円の風呂なしアパートに住み、カスカスの生活を送っている。仕事もプライベートもとても幸せとは言えなかった。

案の定というか、そんな無理がたたって、ある日の通勤途中、駅で突然動けなくなってしまう。メンタルを病んで会社へ行くことができず、結局会社を辞めてしまう。収入も途絶えて貯金も減り、残りの有り金は10万円のみという崖っぷち状態。

そんな時、友人から、都内の一軒家でひとり暮らしをする56歳のサラリーマンとの同居生活を提案される。予想外の提案に戸惑う安希子だったが、格安の条件に惹かれて、ササポンと呼ばれるおじさんとの奇妙な同居生活を始めるのだが……。

というわけで、このドラマは安希子の再生物語である。ダメダメの日々を送っていた安希子が、ササポンという親戚でもなく恋人でもないおっさんのおかげで、癒されて再生していく。

おっさんと同居なんて、突飛な設定だと思うかもしれないが、実話だからしょうがない。だいたい、同居生活といっても家はササポンのもの。考えようによっては、ササポンの家の部屋を間借りしているとも考えられる。しかも、ササポンはこれまでもこういう生活をしてきたのだ。そもそもおっさんが、みんな下心丸出しだと考えるのは失礼だぞ!(笑)

この映画で感心するのは、安希子の心理をきちんと描いていること。全体をユーモア仕立てにしながら、彼女の焦りや葛藤をうまく描写している。ライターとして1本1000円の記事を書きながら、それでは食えないからバイトをする日々。恋人もなく、このまま年老いていくのではないかと不安に思うアラサー女子の、心の内を余すところなく描いている。

演じる深川麻衣も、奇しくも2016年まで「乃木坂46」のメンバーとして活動した元アイドル。今泉力哉監督の「愛がなんだ」での演技は素晴らしかったが、今回も見事な演技を見せている。感情の浮き沈みが激しい安希子を巧みに表現していた。場面に応じて表情がくるくる変わるのが印象的だ。

そして、そんな安希子を癒すのがササポン。優しくて、無口で、風変わりな男だ。口数は少ないが、口に出す言葉はどれも含蓄のある言葉。そして何よりも、彼が作り出す雰囲気が実に居心地がよい。安希子との距離感も絶妙で、彼女が癒されていくのがわかる。

井浦新は、これまであまりこういう役を演じてこなかったというが、さすがに説得力を持ってササポンを演じている。下手な役者が演じると嘘くさくなりそうなドラマが、そうなっていないのは彼の起用が大きいと思う。終盤では、ササポンの過去がチラリと明かされるが、そこもごく自然な演技で見せる。おかげで、ササポンがとても魅力的な人物に映る。

アラサー女子の友情物語もよく描けている。安希子と高校時代の同級生2人の関係がとても素敵だ。特に社長をしている友人(「赦し」で同級生を殺した少女に扮した松浦りょうが演じている)は、ササポンを紹介したのをはじめ、時には暴走する安希子を叱り飛ばしながら常に彼女に寄り添う。

柳ゆり菜が演じた元女優の同級生と3人で、橋の上から「幸せになりたい~」と叫ぶシーンは、なかなかの名シーンだと思う。その後に、ササポンの家で3人でケーキを食べるシーンも微笑ましくてとても良い。

まあ、気になるところといえば、モノローグ過多なところだろうか。このドラマは、全編をモノローグで進めているのだが、状況説明はともかく、感情描写までモノローグにするのはどうなのか。個人的には違和感を持った(ちなみに、脚本は「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」などの坪田文)。

それから、冒頭の場面でアニメ(花の絵)を入れるなどPOPなつくりも見られるのだが、もっとそういう遊び心のある場面を増やしてもよかった気がする。

とはいえ、全体を通してみれば、温かでとても心地よい映画に仕上がっている。焦燥感に苛まれていた安希子は、ササポンや友人たちによって目の前に幸せがあることに気づく。そんなふうに人生は、ちょっとしたことで好転する。悲観する必要などない。そう思わせられた良作だ。

◆「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」
(2023年 日本)(上映時間1時間56分)
監督:穐山茉由
出演:深川麻衣、松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛、河井青葉、柳憂怜、井浦新
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://tsundoru-movie.jp/

 

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