「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
2024年3月19日(火)テアトル新宿にて。午後3時30分より鑑賞(C-11)
~熱い熱量が伝わる。映画にとりつかれた若者たちの青春群像ドラマ
デスクトップパソコンの起動が遅くなったので新しいのを買おうと思うのだが、そのままデスクトップにするか一体型にするかで迷っている。一体型は機能は劣るものの、省スペースで、内蔵カメラも備え、サウンドも良いとあって悩んでしまう。さて、どうしたものか。
そんなことには関係なく、今回観た映画は「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」。若松孝二監督率いる若松プロに出入りした人たちの青春群像劇「止められるか、俺たちを」(白石和彌監督)の続編だ。ただし、続編といっても最初はそういう趣旨で立ち上がった企画ではないらしいので、前作を観ていなくても問題はない。監督は前作で脚本を担当した井上淳一。
若松監督が作った名古屋の映画館「シネマスコーレ」を軸にした、実話にもとづいた物語である。結婚を機に東京の文芸坐を辞めて、地元名古屋に戻ってビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治(東出昌大)。ある日、突然、彼のもとに若松から電話がある。名古屋に新しく作る映画館シネマスコーレの支配人になって欲しいというのだ。
時代は1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進みつつあった。そんな中、自作を上映する映画館が欲しいということで、若松は風俗ビルの1階にシネマスコーレを作った。
なぜ名古屋なのか。東京や大阪は家賃が高いからというのがその理由だった。要するに、最初からかなり危ない話だったのだ。おまけに若松は気まぐれな性格。木俣は若松に振り回される。
最初は木俣の希望通りに名画座としてスタートしたシネマスコーレ。しかし、客の入りが悪く赤字続きなのを見た若松は、ピンク映画の新東宝と話をつけピンク専門の映画館にする。「ピンクだろうと映画だ。映画を差別するな!」というのが若松の言い分だったが、それは建前。背に腹は代えられなかったのが実情だ。
それでも木俣は、ピンクの合間に一般映画を上映するなどあれこれ奮闘した。おりしも、アダルトビデオの登場でピンクが衰退し始めたこともあって、今度はいわゆるミニシアター的なプログラムに衣替えして生き残りを図ったのだ。
というわけで、シネマスコーレは今もミニシアターの雄として健在だ。劇中の木俣は数々の困難に直面しても、苦労を苦労とも思わず飄々として動じない。実際の木俣さん(現社長)もそういう人らしい。
だが、それでは葛藤がなくドラマにならない。井上監督が木俣のことだけ書いた脚本は30枚(15分)で終わってしまったという。そこで、井上監督は驚くべきことをした。何と自身のドラマを組み込んだのだ。
シネマスコーレには映画にとりつかれた様々な人々が集ってきた。その中には、映画監督志望の学生、井上淳一(杉田雷麟)もいた。ある日、井上は若松監督と出会うと、そのまま新幹線に乗り込み東京に帰る若松に弟子入りを志願する。そうやって若松プロに入り、助監督となった井上だが、撮影現場でヘマばかりして若松から厳しく叱責される。
そんな井上に嫉妬していたのが、シネマスコーレでバイトする女子学生の金本法子(芋生悠)だった。彼女は映画が作りたくて映研に入ったものの、大した作品もれずにいた。フラストレーションがたまり、井上にそれをぶつける。
ちなみにこの法子という存在はフィクションらしい。それにしても井上は監督自身。それを自分で描く心境はいかばかりか。でも、まあそのへんは一歩引いて客観的に撮っているので、鼻につくようなところはありません。
それにしても、井浦新演じる若松監督が強烈だ。前作でもそうだったが、今回はそれ以上に役に入り込んでいる。私も生前の若松監督を何度か目撃しているが、確かにあんな感じだったよなぁ。ムチャクチャなんだけどなんか魅力があって。その言動がおかしくて、終始笑いっぱなしだった。下手な喜劇役者より面白い。
とはいえ、もちろんシリアスなところはあるし、木俣、井上、法子ら若者たちの青春群像劇として見応えがある。映画にとりつかれたものの、まだ何者にもなれずに遮二無二己の道を突き進み、挫折し、それでも立ち上がる彼らの熱い思いが胸に響く。
舞台となった80年代の空気感もよく伝わってくる。例えば予備校の河合塾の教師が、全共闘上がりでビールを飲みながら授業するとか。今なら考えられない。法子が在日で指紋押印にまつわる話が出てきたりするのも、当時を知っている身としては色々考えさせられる。
もちろん、映画好きの話だから映画ネタもたくさん出てくる。邦画を中心に当時の映画事情がよくわかる。若松と井上が「大林(宣彦)が嫌い」で一致するのには笑ってしまった。
終盤は、井上が初めて監督することになった河合塾のPR映画「燃えろ青春の一年」の撮影風景。そこで井上を差し置いて、プロデューサーの若松孝二がいつの間にか監督の役割を果たすところが笑える。23カットを1シーンで撮るなんて若松らしい。そこに赤塚不二夫や竹中直人(本人)が登場するのも見どころ。
最後は彼らの未来にうっすらと光がともる。そして若松の独白でドラマは締めくくられる。
前述の井浦はもちろん、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟ら役者はどれも存在感がある。「福田村事件」とかなり役者がかぶっているのは、井上が脚本とプロデュースを担当していたせいだろう。その中でも、木俣の妻役のコムアイが今回もいい味を出していた。この人、本当に得難いものを持っている。
映画愛にあふれたドラマ。おそらく観客は私のように、80年代の状況や若松監督、若松プロのことを知っている人が中心なのだろうが、普遍的な青春ドラマとして若い人にも観てもらいたいな……。
◆「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
(2023年 日本)(上映時間1時間59分)
監督・脚本・企画:井上淳一
出演:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、コムアイ、田中俊介、向里祐香、成田浬、大西信満、タモト清嵐、山崎竜太郎、田中偉登、高橋雄祐、碧木愛莉、笹岡ひなり、有森也実、田中要次、田口トモロヲ、門脇麦、田中麗奈、竹中直人
*テアトル新宿ほかにて公開中
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