映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「からかい上手の高木さん」

からかい上手の高木さん
2024年6月5日(水)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時10分より鑑賞(スクリーン5/G-12)

~原作の10年後の2人。「好き」になるのは面倒くさいけど素晴らしい


今泉力哉監督を見出したのは私である。

というのは真っ赤な嘘だが、今ほど知名度のなかった時代の「サッドティー」(2014年)から注目しているから、けっこう早いうちに目を付けたほうだろう。それ以降、ほとんどの映画は観ている。

その今泉監督の「窓辺にて」「ちひろさん」「アンダーカレント」に続く新作が「からかい上手の高木さん」。原作は山本崇一朗の人気コミックで、過去にTVドラマ(同じく今泉監督が演出)やアニメにもなったとのこと。

原作は中学生の恋愛ストーリーだ。ある島の中学校で、隣の席になった女の子・高木さんにいつもからかわれている男の子・西片。だが、ある日、2人は離ればなれになってしまう。

本作がユニークなのは、原作をそのまま映画化するのではなく、その先の10年後の2人を映画にしていることだ。

離ればなれになってから10年。パリに行ってしまった高木さん(永野芽郁)が、母校で体育教師をしている西片(高橋文哉)の前に教育実習生として現れる。突然の再会に驚く西片。この時から再び高木さんのからかいに翻弄される日々が始まる……。

この映画の最大の魅力は、穏やかで心地よい空気感だ。島が舞台ということもあり(ロケ地は香川・小豆島)、美しい自然とゆったりした時間の流れに包まれて、登場人物の会話や表情にもそうした空気感が漂っている。いつまでも浸っていたい気持ちにさせられる。

その中で繰り広げられるのは、今泉監督お得意の恋愛ドラマだ。中学生時代にいつもからかっていた高木さんと、からかわれていた西片。傍から見れば2人はつきあっているようにも思えたが、実際は友達以上恋人未満という感じだった。2人はお互いの気持ちを確かめることもなかった。

そんな2人が突然離ればなれになって、10年後に再会する。そこから時計が再び回り始める。

2人は中学生の時のままだ。西片は純朴でまじめで、相変わらず高木さんにからかわれている。高木さんは明るく陽気で西片をからかっている。西片は高木さんのことが好きらしいのだが、それを言葉にはしない。一方、高木さんも西片に何らかの感情があるようにも思えるが、それを口にはしない。そんな2人の微妙な心情を今泉監督は巧みに描写する。さすが恋愛映画の名手だけのことはある。

中盤からは、不登校の男子生徒が2人の関係に絡んでくる。絵を描くのが好きだというその生徒に、高木さんは寄り添い一緒に絵を描く。彼女はパリで絵を描いていたのだ。一方、その生徒が不登校になったのは、自分が告白したからではないかと疑念を持つ女子生徒の求めに応じて、西片は彼女の相談に乗る。

そんな2人の生徒のエピソードやラブラブの中学生カップルの姿が、高木さんと西片の中学時代にリンクして、2人のその後の言動にそこはかとない影響を与える。このあたりの描写の繊細な匙加減にも感心させられる。

特に大きなことは起きないドラマだ。高木さんと西片の間に「からかい」があるというのはユニークだが、それ以外は平板なドラマと言えるかもしれない。途中で、花火を2人で見に行くというのも恋愛映画ではよくあるパターン。それを面白くしているのは今泉監督の演出とキャストの演技である。

永野芽郁、高橋文哉の2人はこの映画の空気感にぴったりだ。特に永野芽郁の演技がいい。あの笑顔だから、からかわれてもちっとも悔しくないんだよなぁ。他の生徒役のキャストも絶妙だ。

そして、何よりも今泉監督らしいのは終盤の長回しのシーン。三週間の教育実習を終えた高木さんと西片が教室で並んで座って会話をする。これがまあ圧巻なのだ。2人が過去のことも含めて、それぞれの心情を率直に口にする。そこでは、「好き」ということの微妙な受け止め方の違いがあらわになり、2人の会話がすれ違ったりする。「あら? もしかした2人は別れるの?」と思ったりもするのだ。スリリングでリアルな描写で目が離せない。まさに今泉監督の面目躍如といった感じだ。

その末に2人の関係がどうなるかは伏せるが、最後まで穏やかな空気感はそのままだ。エンドロールの途中の後日談はちょっと余計だった気もするが、何だかとっても後味の良い映画だった。

本作もそうだが、今泉監督の恋愛映画は、「人を好きになるのは面倒くさいことだけど、それでも素晴らしいことなんだ」という優しい思いが通底しているような気がしてならない。だから、私は今泉監督の映画を観続けるのかもしれない。

ちなみに、本作が原作やアニメと違いすぎるとクレームをつけた投稿をSNSで見かけたのだが、私は原作やアニメを未見なのでよくわからない。ただ映画とコミックやアニメは別物であり、より良くするのに改変を施すのは何の問題もないと思う。要は原作者がきちんと納得しているかどうかだ(本作の原作者が納得しているかどうかは知らない)。TVドラマ「セクシー田中さん」はそこがきちんとしていなかったから、ああいう悲劇につながったのだと思う。

◆「からかい上手の高木さん」 
(2024年 日本)(上映時間1時間59分)
監督:今泉力哉
出演:永野芽郁、高橋文哉、鈴木仁、平祐奈前田旺志郎志田彩良、白鳥玉季、齋藤潤、江口洋介
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://takagi3-movie.jp/

 


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