映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「劇場版 きのう何食べた?」

「劇場版 きのう何食べた?
2021年11月23日(火・祝)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン5/H-11)

同性カップルの日常を笑いとともに描く人気テレビドラマの劇場版

無事に検査入院から帰ってまいりました。いや、検査だから帰ってくるのは当たり前だと思うかもしれないが、実際に受けてみると「よくぞ無事に帰ってきた」と自分で自分を褒めてあげたくなるぐらいの大変な検査なのでした。まあ、病院の都合でホテルのような個室に入院できたのは良かったのですが(もちろん差額ベッド代なしで)。

さて、検査入院を終えて、しばらくは映画館に行けないと思ったものの……、近場の映画館なら何とかなるかと思い上映時間をチェック。しかし、観たい映画は時間が合わず、さして興味もなかった「劇場版 きのう何食べた?」を鑑賞するハメになってしまったのである。

劇場版とうたっているように、もともとは、よしながふみの漫画が原作のテレビドラマ(テレビ東京系で放送)。それをドラマ版のキャスト&スタッフで映画化した。弁護士と美容師のゲイのカップルのドラマである。ちなみに私はドラマは一度も観たことがない。

弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)は、お互いをシロさん、ケンジと呼び合う恋人同士だった。同居する2人にとって、史朗が作る美味しい料理を一緒に食べる時間が何よりも大切で幸せなひとときだった。そんな中、2人は史朗の提案で、賢二の誕生日プレゼントとして京都旅行へ行く。だが、あまりにも優しい史朗の態度に、喜びつつも不安な気持ちに襲われる賢二だった……。

このドラマ、ゲイのカップルのドラマという以前に料理のドラマである。シロさんが料理が得意という設定もあって、美味しそうな料理がたくさん登場する。カレーうどん、ローストビーフカルパッチョ、正月の黒豆……。空腹で観に行くと、えらい目に遭いそうだ。料理のレシピやうんちくも満載である。

ドラマ的にはコミカルでハートウォーミングな人情ドラマといった趣。序盤は2人が京都へ出かける。観光名所も随所に登場。その中で、一瞬2人の心がすれ違うが、深刻な事態には至らない。

その後は2人の日常を描くとともに、それぞれの職場や家族との関係などが映し出される。そこでは、賢二の存在を受け入れつつも複雑な心境を抱く史朗の両親など、ゲイのカップルが直面する厳しい現実も描く。その一方で、史朗と食材を分け合う近所の主婦や賢二の職場の仲間など、2人の関係を自然に受け入れている人々も登場する。

2人がけっこう年の行ったゲイ・カップルということで、それをふまえたネタもある。賢二は頭髪を気にして、いろいろともがくのだが、そのことが史朗の疑念を招いてしまう。序盤では史朗に対して賢二が疑念を抱き、終盤では賢二に対して史朗が疑念を抱くという逆転現象が面白い。

2人はそれぞれにお互いを失うことを極端に恐れている。それはどんなカップルにも当てはまることだろうが、やはり同性カップルだけに余計に切実なのではないか。そのあたりの心理もよく描けていると思う。

なにせテレビ版を未見なので、最初は戸惑うかと思ったのだが、意外にそれはなかった。もちろん、テレビ版を知っている人なら、いろいろとお楽しみもあるのだろうが、見ていなくても問題はないだろう。

そんな中で、最初は内野聖陽演じる賢二が典型的なお姉キャラなのがやや鼻についたのだが、それによって笑いが生まれるのは確か。しかも、それがあるからシリアスな場面での内野の演技が引き立つ効果もある。その演技の押し引きの巧さは、さすが文学座で鍛えられただけのことはある(今は辞めてるけど)。それに対する西島秀俊も安定の演技で、まさに2人は名コンビ。

山本耕史磯村勇斗マキタスポーツ高泉淳子田中美佐子奥貫薫田山涼成梶芽衣子らの脇役陣もそれぞれに味のある演技を披露していた。

まあ、あえて言うなら、史朗が弁護士として扱う事件がホームレス絡みの殺人事件ということで、マイノリティーに対する世間の偏見を突く格好のネタなのに、あまり有効に使われていないのがもったいないところ。そこまで求めるのは欲張りだろうか。

ことさらに大きな事件が起きるわけではないが、全体を包むほんわかとした空気感はなかなかに良いものであった。テレビ版のファンならずとも、その独特の空気感にハマる人は多そう。事前にそれほど興味を引かれなかったものの、観に行って損はなかったのであった。

 

f:id:cinemaking:20211124210317j:plain

◆「劇場版 きのう何食べた?
(2021年 日本)(上映時間2時間)
監督:中江和仁
出演:西島秀俊内野聖陽山本耕史磯村勇斗マキタスポーツ高泉淳子松村北斗田中美佐子チャンカワイ奥貫薫田山涼成梶芽衣子
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://kinounanitabeta-movie.jp/

 


www.youtube.com

「ボクたちはみんな大人になれなかった」

「ボクたちはみんな大人になれなかった」
2021年11月14日(日)シネマ・ロサにて。午後2時30分より鑑賞(シネマ・ロサ2/D-10)

~ノスタルジックでセンチメンタルな若き日の恋の思い出

入院します……。といっても2泊3日で検査入院するだけなのだが、それにともなって退院後は仕事が忙しくて、1週間ぐらいは映画館に行けない感じ。よってブログも更新できないと思います。悪しからず。

というわけで、入院前最後の更新は変わった名前の作家が原作の映画。その名も燃え殻。残念ながら作品を読んだことはないのだが、その燃え殻が2016年に発表したデビュー作を映画化したのが「ボクたちはみんな大人になれなかった」である。

監督はCMやミュージックビデオを中心に活躍し、本作が映画監督デビューとなる森義仁。脚本は「そこのみにて光輝く」の高田亮が担当している。

ちなみに、本作はすでにNetflixで配信されている。

ノスタルジーあふれる青春ドラマだ。テレビ業界の片隅で働く46歳の佐藤(森山未來)は、かつての友人、七瀬(篠原篤)と再会する。それをきっかけに、かおり(伊藤沙莉)と過ごした青春の日々を思い出す。

このドラマ、特徴的なのは時間をさかのぼっていること。冒頭は2020年のコロナ禍の東京。そこで、かつての友人と再会した主人公の佐藤は過去を振り返る。

最初は2015年。担当した番組絡みの打ち上げパーティーで知り合った女と一夜を明かした佐藤。帰宅した彼を待っていたのは交際中の女性だった……。

続いて、今度は彼ががむしゃらに働いていた頃。結婚を約束した女性が自分の母親と佐藤を引き合わせるが、多忙な彼は腰を落ち着けて会うことができない。そのため、彼女との仲もおかしくなる……。

ドラマは、さらに時代をさかのぼる。七瀬のバーで仲間たちと楽しくワイワイやっていた頃。佐藤はその中の1人の女性と親しくなるが、実は彼女の正体は……。

というわけで、佐藤の女性関係を描いているわけだが、これらはその後のピュアな恋の布石に過ぎない。いや、時代をさかのぼっているから、布石ということはないな。中心的に描かれる恋の存在があまりにも大きくて、彼のその後の人生に微妙な影を落としているわけだ。

その恋とは1995年~1999年の5年に渡るかおりとの恋。それも小刻みに時間をさかのぼって描かれる。1999年、かおりはさよならも言わずに去ってしまう。「今度CD持ってくるからね」のひと言だけで。

そこから時間をさかのぼって2人の恋の顛末が描かれる。1995年、お菓子工場に勤めていた佐藤は雑誌に掲載されている文通相手募集のコーナーがきっかけで、かおりと文通するようになる。彼女は小沢健二のアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』が好きで、「犬キャラ」と名乗っていた。

まもなく2人は実際に会ってみることにする。渋谷でWAVEの袋を目印に待ち合わせる。その初対面の瞬間のドキドキ感ときたら……。

いや~、たまらんですなぁ。きっと誰にでも思い出があるはず。そんなふうにこの映画は、世代を超えて若き日のノスタルジックでセンチメンタルな恋に観客を誘うのだ。

「普通が嫌だ」という風変わりなかおりの出現で、佐藤は生まれて初めて一生懸命に頑張りたいと思う。テレビ業界への転職を試み、見事に成功する。そのお祝いに彼女のほうから言い出して、渋谷のラブホテルに行く2人。天井に星座のある部屋での、初々しい2人の姿が微笑ましい。

それにしても時間をさかのぼるということは、これほどノスタルジーをかき立てるのか。恋の結末がわかっているから、逆にそれまでの日々が愛おしく、キラキラと輝いてくる。

おまけに、「あれは誰だ?」と思う登場人物が出現し、主人公とどんなかかわりがあったのかも後になってわかるという謎解き的な展開もある。これも時間をさかのぼったことによる効果である。

どんな世代の共感も呼びそうなドラマではあるものの、やはり現在40代後半あたりのドンピシャ世代にとっては、格別なものがあるだろう。何しろ小沢健二の音楽、WAVEの袋、シネマライズラフォーレ原宿タワーレコード、ポケベルなど90年代カルチャーが満載。ディテールにこだわって作られているから、懐かしさで胸が締めつけられる観客も多いはず。

結局のところ、今思い返せば気恥ずかしい恋だし、心残りもたくさんある。しかし、そういう思い出があるからこそ今の自分がいるわけで、それはそれで悪くはないか。

最後まで観ると、ほろ苦さの中にもそんな肯定感が漂ってくるのであった。

「ボクたちはみんな大人になれなかった」というタイトルにあるように、大半の観客にとって、今の自分はかつて思い描いていた自分とは違うはず。だからこそ、なおさらこのドラマに心を揺さぶられるのだろう。

森山未來は20代前半から46歳までを違和感なく演じていて、さすがの演技。そして伊藤沙莉は相変わらず抜群の存在感を見せている。なんであんなに魅力的なんだろう。いつも見るたびに思ってしまう。その他の脇役に加え、チョイ役で出ている有名俳優にも注目。

 

f:id:cinemaking:20211118102031j:plain

◆「ボクたちはみんな大人になれなかった」
(2021年 日本)(上映時間2時間4分)
監督:森義仁
出演:森山未來伊藤沙莉東出昌大、SUMIRE、篠原篤、平岳大片山萌美岡山天音渡辺大知、徳永えり原日出子高嶋政伸ラサール石井大島優子萩原聖人
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ https://bokutachiha.jp/

 


www.youtube.com

 

「愛のまなざしを」

「愛のまなざしを」
2021年11月12日(金)シネマ・ロサにて。午後2時5分より鑑賞(シネマ・ロサ1/C-7)

~亡き妻への思いを巡り錯綜する男と女の感情

杉野希妃という女優をご存じだろうか。女優として演技をしながらプロデューサーを務め、さらに監督業にも進出している。日本には珍しいタイプの女優である。

その杉野希妃がプロデューサーに名を連ね、主要な役どころで出演している心理サスペンスが「愛のまなざしを」である。

精神科医の貴志(仲村トオル)は、6年前に亡くなった妻の薫(中村ゆり)のことが忘れられず、心のバランスを崩して精神安定剤を手放せない日々を送っていた。そんな彼の前に、恋人との関係に疲れた女・綾子(杉野希妃)が患者として現れる。やがて2人は医師と患者という立場を超えて愛し合うようになる。しかし、亡き妻への思いが断ちきれない貴志に対して綾子は異常な嫉妬心を燃やし、思わぬ暴走を始めるのだった。

舞台劇のように濃密な心理サスペンスである。そして最初から最後まで緊張感が途切れない。その源泉は、言うまでもなく貴志と綾子の複雑な関係性にある。

精神科医である貴志と患者である綾子の関係は、最初は貴志が主導権を握っている。しかし、2人の関係が深まるうちにその立場は逆転する。さらに、新たな登場人物が現れるごとに、その関係性は錯綜し二転三転して、新たな展開を迎える。

貴志には一人息子がいて、同居する薫の両親が面倒を見ている。貴志は息子を見れば薫を思い出すからと、あまり家には帰らない。そんな貴志を息子は嫌う。一方、薫の弟茂(斎藤工)は、姉を死に追いやった貴志を憎んでいた。綾子はそんな茂に取り入り、薫の死の真相を聞き出す。

実は薫はうつ病にかかって自殺していたのだ。貴志は自ら薫の治療をしていたのだが、救うことができなかった。その罪の意識もあって、薫のことが忘れられなかったのである。

万田邦敏監督は、「UN loved」「接吻」などの過去作でもヒリヒリするような男女の愛憎劇を鋭く描写してきた。本作でも情感に溺れることなく、冷徹に貴志と綾子の関係性をあぶり出している。その冷たい空気感が、このドラマをいっそうスリリングなものにしている。

閉塞感に包まれた2人の関係性を象徴するように登場する地下道や、地下にある貴志の診察室、貴志の家の居間などのイメージも、このドラマの世界観を際立たせる。

また、すでにこの世にはいない薫だが、劇中では貴志の幻想や夢の中にたびたび登場して貴志と会話を交わす。彼にとって薫は、そのぐらい今もリアルな存在なのだろう。それもまたこの映画に、不思議な魅力をもたらしている。

本来なら現世の存在である綾子と、すでに死んでいる薫では勝負になりようもない。だが、綾子は猛烈に彼女に嫉妬する。そのゆがんだ感情が彼女を暴走させる。それをきっかけに、それまで薫に対して揺るぎない愛情を感じていた貴志は、大いに戸惑い、混乱し、堕ちていく。

そして、その先に待つのは破滅的な結末だ。予想もしない展開が待っている。だが、同時にそこからは人間の本性が赤裸々にあぶり出される。

亡き妻に未練タラタラの男と、とんでもない暴走女の愛憎劇。そんなチープなドラマになりがちな素材を、これだけの映画にするのだからスゴイ。ややセリフが紋切り型で今ひとつ面白みに欠けるところが気になるものの、背筋ゾクゾクものの怖い映画だった。単なる男女の愛憎劇を超えた奥深さを感じさせるドラマである。

仲村トオルはこの手の役がよく似合う。そして杉野希妃の壊れっぷりが半端でない。なぜに彼女がそうなったのか。生い立ちなどはあまり語られないのだが、それでも彼女の行動を納得させる演技で、見事なファムファタールぶりだった。

監督、脚本、出演をこなした2016年の「雪女」でも、妖しい雪女を魅力的に演じていた杉野希妃。その妖しさにますます磨きがかかった感がある。

 

f:id:cinemaking:20211115201639j:plain

◆「愛のまなざしを」
(2020年 日本)(上映時間1時間42分)
監督:万田邦敏
出演:仲村トオル、杉野希妃、斎藤工中村ゆり、藤原大祐、万田祐介、松林うらら、ベンガル森口瑤子片桐はいり
ユーロスペースシネマ・ロサほかにて公開中
ホームページ https://aimana-movie.com/

 


www.youtube.com

 

「花椒の味」

花椒の味」
2021年11月11日(木)新宿武蔵野館にて。午後2時50分より鑑賞(スクリーン1/B-8)

~父の死をきっかけに出会った3人の異母姉妹の葛藤と成長

火鍋といえば、赤色の辛いスープが特徴の中国の鍋。日本でもおなじみだが、残念ながら私は食べたことがない。その火鍋店を舞台にした香港映画が「花椒(ホアジャオ)の味」だ。エイミー・チャンの小説「我的愛如此麻辣」をもとに、香港の女性監督ヘイワード・マックが脚本・監督を手がけた。

旅行代理店で働くユーシュー(サミー・チェン)のもとに、父リョン(ケニー・ビー)が倒れたという知らせが届く。急いで病院に駆けつけるが、すでに父は死んでいた。久しぶりに父の経営する火鍋店「一家火鍋」へ行き、遺品の携帯電話を確かめていたユーシューは、そこに自分とよく似た名前を見つける。

父の葬儀の日、葬儀場には台北から来た次女ルージーメーガン・ライ)、重慶から来た三女ルーグオ(リー・シャオフォン)が現れ、今まで存在すら知らなかった3人の異母姉妹が初めて顔を合わせる。それぞれ父に対する複雑な思いや家族とのわだかまりを抱えた3人は、父の秘伝の味を再現しようと奮闘するのだが……。

異母姉妹のドラマといえば、是枝裕和監督の「海街diary」を思い起こすが、本作はいわば香港版「海街diary」。母親が違う3人の姉妹が交流を重ね、様々な葛藤を乗り越えて成長する。

まず目につくのが3姉妹のキャラだ。いかにも優等生タイプの長女ユーシューに対して、次女ルージーはボーイッシュなビリヤード選手、三女ルーグオは髪をオレンジ色に染めたネットショップオーナーと、それぞれにキャラが立っている。

普通この手のドラマは、3人が仲違いしつつ、少しずつ距離を縮めていくものだが本作は違う。3人は最初こそギクシャクするものの、すぐに仲良くなる。それもそのはず、3人の関係性は本作の肝ではない。中心的に描かれるのは、姉妹それぞれと家族との関係である。

ルージーは母との確執を抱えている。父と別れた後でルージーのことが気になって仕方ない母は、何かと彼女に干渉していた。ルージーはそれを嫌い、強く反発していた。ビリヤードの成績も思うように向上しない。

ルーグオは再婚してカナダに渡った母に代わって、祖母の面倒を見ていた。両者の関係はふだんは良好だったが、孫の将来を心配した祖母が見合い話を持ち込むなど、ルーグオを結婚させようと躍起になったことから、その関係には隙間風が吹き始める。

そして、長女のユーシューだ。彼女は亡き父と疎遠になっていた。父は一度はユーシューの母親を捨てて台湾に渡っていた。それなのに母が病気になると戻って看病するようになった。そんな父をユーシューは強く非難した。さらに、母の死後も忙しくて思うようにコミュニケーションが取れずに、2人の関係はギクシャクしたままだった。

そんな家族の葛藤を抱えた三姉妹だが、一緒に過ごす時はひたすら楽しくて仲が良い。火鍋を作りながら笑い合い、父の思い出話でしんみりし、酔っぱらってまた爆笑する。ほとんど会ったことのない3人がこんなに仲良くできるのに、長く暮らす親や祖母には素直になれない。それがとてももどかしい。

ヘイワード・マック監督はそんな3人の姿を生き生きと描く。ユーシューに関しては、過去の回想シーンなども挟み込み(亡き父がふんだんに登場する)、彼女の心の葛藤を浮き彫りにする。

ユーシューの過去の恋愛模様や(元婚約者はアンディ・ラウ!)、病院の麻酔科医との現在の交流なども描かれる。

ユーモアもタップリ込められている。何しろ父の葬儀では、仏教徒なのを知らないユーシューが(それを知らないほど父と疎遠だったという証拠でもある)、ド派手な道教の葬式を挙げてしまうのだ。ゴキブリを見て、父の生まれ変わりだと三姉妹が大騒ぎするシーンもある。

後半のドラマは、図らずも父の火鍋店を継ぐことになったユーシューが、父の味を再現しようと奮闘する姿を柱に据える。そこに協力するのが、家出をしてきたルージーとルーグオだ。3人は店を盛り上げようと一生懸命になる。

それを通して、3人はそれぞれの家族との絆を結び直していく。ルージーは母との、そしてルーグオは祖母との絆だ。

そして、ラストシーンではちょっとファンタジックな仕掛けを施して、ユーシューと亡き父との絆をしっかりスクリーンに刻み込む。

最後の展開には一瞬驚いたが、ユーシューの成長を示すにはああいう終わり方が正解なのだろう。

主人公のユーシューを演じたのは、歌手としても女優としても活躍するサミー・チェン。父との確執を抱えた後悔から、人の優しさを素直に受け取れないユーシューの姿を巧みに演じていた。姉妹との交流を通して次第に笑顔が増えていくところが印象的。

さらにルージー役の台湾のメーガン・ライ、ルーグオ役の中国のリー・シャオフォンも好演。リー・シャオファンは、「芳華 Youth」(2017)での演技も強烈なインパクトを放っていた。

ほんわかとした温かみを感じさせる映画だった。なかなかに味わいがある。火鍋もなかなかに美味しそうである。

 

f:id:cinemaking:20211113201513j:plain

◆「花椒の味」(花椒之味/FAGARA)
(2019年 香港)(上映時間1時間58分)
監督・脚本:ヘイワード・マック
出演:サミー・チェン、メーガン・ライ、リー・シャオフォン、リウ・ルイチー、ウー・イエンシュー、ケニー・ビー、リッチー・レンアンディ・ラウ
新宿武蔵野館にて公開中
ホームページ https://fagara.musashino-k.jp/

 


www.youtube.com

「スウィート・シング」

「スウィート・シング」
2021年11月6日(土)新宿シネマカリテにて。午後2時35分より鑑賞(スクリーン2/A-5)

~モノクロ映像で綴る頼る大人を失くした姉弟の旅路

東京国際映画祭も閉幕。私が唯一鑑賞した「もうひとりのトム」は最優秀女優賞を獲得した。なるほど、主演のフリア・チャベスの演技はすごかったもんねぇ。この映画、はたして日本公開はされるのか。公開されるにしても、たぶん1年後ぐらいだろう。

そんな中、昨年の第33回東京国際映画祭の「ユース」部門で上映された映画が公開になった。アメリカ映画「スウィート・シング」である。ちなみに、東京国際映画祭上映時のタイトルは「愛しい存在」。

監督はアメリカのインディーズ映画界で活躍し、「父の恋人」「イン・ザ・スープ」「フォー・ルームス」などの秀作を1990年代に送り出したアレクサンダー・ロックウェル。経歴を見ると2010年の「ピート・スモールズは死んだ! 」など数本の監督作があるようだが、いずれも日本公開はされていないようで、日本公開作品は実に25年ぶりとなる。

主人公は、マサチューセッツ州ニューベッドフォードで暮らす15歳の少女ビリー(ラナ・ロックウェル)と11歳の弟ニコ(ニコ・ロックウェル)。父アダム(ウィル・パットン)と貧しいながらも幸せに暮らしている。母イヴ(カリン・パーソンズ)は家を出て、別の男と暮らしていた。そんな中、酒浸りだったアダムは、クリスマスに家族と一緒に食事をするはずだったイヴとトラブルになったのをきっかけに、いっそう酒におぼれる。その挙句に、強制入院させられることになってしまう。他に身寄りのない姉弟は、母のイヴのもとを目指すのだが……。

頼る大人を失くした姉弟のドラマだ。特徴的なのは、16ミリフィルムのモノクロ映像で描いているところ。そこにパートカラーの映像が随所に挟まれる。その美しさたるや息を飲むほどだ。魔術的なまでに美しい。鮮烈かつ繊細、詩的な映像である。

音楽の使い方も抜群にうまい。ビリー・ホリデイの曲をはじめ、クラシック、ロックなどあらゆるジャンルの音楽を使っているのだが、実に場面場面に合った使い方をしている。

カメラは子供目線の寄りの映像を多用する。それが姉弟の心情を細やかに映し出す。彼らのたくましさと弱さを同時に見せる。さらに、ビリーの命名の由来となった歌手ビリー・ホリデイを空想の世界に登場させるなど、ファンタジックな映像も効果を発揮する。彼らを取り巻く現実が厳しいからこそ、そのきらめきがひときわ鮮やかに映る。

大人たちの描写も秀逸だ。父のアダムは子供たちを愛している。それが手に取るようにわかる。だが、酒が彼をダメにする。酔ってビリーの髪を切ろうとするところなどは、ある意味虐待に近いのだが、それでも彼の根底から愛情が消えることはない。それでも子供たちを不幸にしてしまう。

母のイヴも同様だ。子供たちを嫌いなわけではない。だが、どうしようもないDV 男に引っかかり、ひどい目に遭いながらもどうしても離れられない。そのことが、子供たちを追い詰めてしまう。そんな大人たちのどうしようもなさが伝わってくる。

終盤、壊れた大人たちに翻弄されたビリーとニコは、海辺で出会った少年(彼も不幸を背負っている)を道連れに旅に出る。それは逃避と冒険の旅路だ。そこでようやく彼らは、大人たちの呪縛から解放される。

しかし、アウトローを自称する彼らに待ち受ける運命は、ハッピーエンドとはいかない。ショッキングで苦い出来事が起きる。そのことが彼らの旅を終わらせる。だが、それでもラストには希望を感じさせるエンディングが用意されている。子どもたちの未来に対するロックウェル監督の願望が、そこに込められているのだろう。

姉弟はじめ、子供たちの前に横たわるのは過酷な現実だ。だが、彼らは悪戦苦闘しつつそれを乗り越えていく。そのしなやかさとしたたかさが、まぶしく思えてくる。

ビリーとニコの姉弟役を演じるのは、ロックウェル監督の実子のラナ・ロックウェルとニコ・ロックウェル。どちらも恐ろしく演技がうまい。特に姉のラナ・ロックウェルは、その憂いを秘めた表情が大物感を漂わせている。劇中で披露する歌もなかなかのもので、これは将来が楽しみかも。

父役のウィル・パットン、母役のカリン・パーソンズ(監督の奥さん)も、なかなかの好演だった。

本作はロックウェル監督と、彼が教えるニューヨーク大の学生たちの共同作業による作品だ。キャストも身内を起用しており、手作りの映画といえる。だが、その手触りは圧倒的に若い息吹に満ちている。20代の監督の初監督作品といっても、誰も疑わないだろう。ベテラン監督による、みずみずしさにあふれた作品である。

 

f:id:cinemaking:20211109190132j:plain

◆「スウィート・シング」(SWEET THING)
(2020年 アメリカ)(上映時間1時間31分)
監督・脚本:アレクサンダー・ロックウェル
出演:ラナ・ロックウェル、ニコ・ロックウェル、ジャバリ・ワトキンズ、ウィル・パットン、カリン・パーソンズ、M・L・ジョゼファー、スティーヴン・ランダッツォ
*新宿シネマカリテにて公開中
ホームページ http://moviola.jp/sweetthing/

 


www.youtube.com

 

 

 

「もうひとりのトム」

「もうひとりのトム」
2021年11月5日(金)第34回東京国際映画祭コンペティション部門(TOHOシネマズ シャンテ)にて。午後12時10分より鑑賞(スクリーン3/D-7)

向精神薬の過剰使用を背景に親子の強い絆を描く

ここ数年、東京国際映画祭の関係者パスをもらい、タダで15~25本の映画を鑑賞させてもらっていた。だが、今年は声がかからず。まあ、どっちみち今年は忙しくてほとんど行けそうになかったから、いいのだけれど。

とはいえ、全然行かないのも悔しいので、空いた時間を狙って自腹で(1600円)行ってきた。ちなみに、昨年までは六本木で開催されていたが、今年から有楽町・日比谷界隈での開催となった。鑑賞したのは、コンペティション作品「もうひとりのトム」。

映画の冒頭はエレベーターの中。子供を連れた母親がいる。子供はひたすら落ち着きがない。女の子だ。あれ? 名前はトム? 何だ、髪が長い男の子か。それにしても本当に落ち着きがない。その理由はあとになってわかる。

母親のエレナ(フリア・チャベス)はシングルマザー。メキシコ人だが、アメリカのテキサス州エル・パソで暮らしている。働いているが生活は苦しく、社会福祉の世話になっている。

その息子のトム(イスラエル・ロドリゲス・ベトレリ)は、学校でも落ち着きがなく、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されてしまう。精神科医は彼に向精神薬を服用させる。それをきっかけに、トムは性格が変化し、おとなしくなってしまう。

邦題の「もうひとりのトム」とは、おそらく向精神薬の服用で性質が変化してしまったトムのことを指すのだろう。

実は向精神薬には副作用があり、うつ病や不眠、はては自殺に至る可能性もあるという。だが、エレナは医師からそのことを知らされていない。トムの友人の父親がエレナにそのことを忠告するが、エレナはそんなことはないという。

だが、ある時、トムはエレナの運転する車に乗っているさなか、車から転落して大ケガをしてしまう。事故? 自殺? 疑念を持ったエレナは精神科医を問い詰め、トムの薬の服用を拒否する。

しかし、そのことが思わぬ事態を招く。再び元の落ち着きがない状態に戻ったトムを見た学校の教師は、エレナを虐待の疑いで児童福祉局に通報するのだった……。

というわけで、貧しいシングルマザーと障害を持つ息子のドラマだ。エレナは理想の母親などではない。男関係はだらしがないし、仕事で留守がちだ。だが、彼女はトムを心から愛している。もちろん虐待などとは無縁だ。

それでもエレナは貧しく不器用だ。金がないために、たびたび約束破りをする。トムはそれに怒る。そして、トムの実父は、遠く離れたリゾート地で別な女の人と暮らしている。彼もまたトムを愛していると言うのだが、約束の仕送りは途絶えがちだ。

このドラマはADHDをめぐる診断と、向精神薬の過剰使用という問題を中心に、貧困や虐待などの問題を絡めた社会派ドラマの側面を持つ。同時に息子を不器用にしか愛せない母親の苦難を描く。

親子を見つめる目は冷徹だ。エレナがほとんど笑わないこともあって(それは生活の苦しさを反映してもいる)、彼女の心情がストレートに表現されることは少ない。それでも親子の内面から、それぞれの心情が少しずつにじみ出てくる。被写体を冷静に観つつ、かといって突き放すこともない絶妙の距離感が印象深い。

終盤はロードムービーの様相を呈する。親子は車に乗って旅をする。2人は一度は離れ離れになるのだが、やはりエレナはトムから離れられない。親子はある場所にたどり着く。

水辺で横たわるエレナに、トムがそっと頭を持たせかけるラストシーンが余韻を残す。2人のこれからを、あれこれと想像させる。それでも、そこには確かな親子の絆が存在する。エレナもトムも、お互いがそばにいるだけでいいのだ。

母親役のフリア・チャベスのたくましさ、トム役のイスラエル・ロドリゲス・ベトレリの健気さが際立つ。ベトレリは5歳の時からエル・パソの劇場で子役として活躍していたという。

さて、本作はコンペティション部門15本のうちの1本。はたして受賞はあるのか。例年ならほとんどのコンペ作品を鑑賞するので予想らしきことも言えるのだが、今年はなんせこれ1本なので皆目わかりません。

今年の東京国際映画祭はこれにておしまいかしら。土日はみんな満席なんだよねぇ。上映劇場が小ぶりだから。

 

f:id:cinemaking:20211106210126j:plain

◆「もうひとりのトム」(EL OTRO TOM/THE OTHER TOM)
(2021年 メキシコ・アメリカ)(上映時間1時間51分)
監督・脚本・製作:ロドリゴ・プラ、ラウラ・サントゥージョ
出演:フリア・チャベスイスラエル・ロドリゲス・ベトレリ、マリシア、セルヒオ・レオナルド・デルガード、アレハンドラ・ドサル、クリストファー・ジョーンズ
ホームページ(英語) https://www.outsiderpictures.us/

「モーリタニアン 黒塗りの記録」

モーリタニアン 黒塗りの記録」
2021年11月1日(月)池袋HUMAXシネマズにて。午後2時55分より鑑賞(スクリーン6/C-10)

~緊迫のサスペンスの先に見える権力のおぞましい策謀

悪名高きグアンタナモ収容所。2001年の9.11米国同時多発テロの後、キューバグアンタナモ米軍基地に設けられた収容所だ。そこに正当な司法手続きのないまま長期間にわたって拘禁され続けたモーリタニア人、モハメドゥ・ウルド・スラヒの手記を映画化した社会派サスペンスが「モーリタニアン 黒塗りの記録」である。監督は、「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」「ラストキング・オブ・スコットランド」のケヴィン・マクドナルド

映画の冒頭はモーリタニアでのパーティーの場面。モハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)という青年が楽しそうに過ごしている。そこに当局の人間が訪れ、彼に話を聞きたいという。モハメドゥは心配する母親に「すぐに帰れるから」と言って当局者たちとその場を去る。

続いて場面は2005年のアメリカに移る。人権派弁護士のナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)が、ある人物の弁護を依頼される。その人物は9.11の首謀者の1人として拘束され、一度も裁判にかけられないままにグアンタナモ収容所で数年間拘禁されているという。そう。それは冒頭で当局に連行されたモハメドゥだった。

ナンシーは同僚のテリー・ダンカンとともに、グアンタナモ収容所を訪れてモハメドゥと面会する。ナンシーは「不当な拘禁」だとしてアメリカ合衆国を訴える。

時を同じくして、アメリカ政府はなんとしてもスラヒを死刑にしようとして、軍の法律家、スチュアート・カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)に起訴を担当させる。彼は知人が9.11テロで死亡したこともあり、強い使命感で調査を開始する。

このドラマは言うまでもなく社会派要素の強いドラマである。だが、同時に弁護士ナンシーとスチュアート中佐、そして政府との対決を軸にした、スリリングでミステリアスなサスペンスとしての魅力にあふれている。

何よりも構成が巧みだ。弁護士のナンシーはモハメドゥを助けるために、真実を解明しようとする。スチュアート中佐はモハメドゥを死刑にするために、調査を開始する。つまり、両者はまったく正反対の目的で調査を開始する。ところが、その行き着き先は同じ一つの真実なのである。

その真実とは何か。それにたどり着く前に、両者の前にはそれぞれ壁が立ちはだかる。ナンジーはモハメドゥから届く手紙による証言を頼りに、真実を明らかにしようとする。その過程で政府の機密書類を再三開示請求した結果、ようやく書類が届く。だが、その書類は邦題にあるように「黒塗り」だったのである(日本でもしばしば登場する公文書の黒塗りだ!)。

一方、スチュアートもある機密文書の存在を知り、それを何とかして手に入れようとする。だが、当局のガードは固くなかなか入手できない。

弁護士ナンシーを演じるのはジョディ・フォスター。年を取ってもカッコいい。強い意思と使命感を持つ女性。こういう役がハマリ役だ。大げさな演技をするわけではないのに、そこにいるだけでスクリーンに映える。抜群の存在感だ。これぞ映画スターである。この映画で、彼女は第78回ゴールデングローブ賞の最優秀助演女優賞を受賞している。

それに対してスチュアート中佐役のベネディクト・カンバーバッチも、同じく抜群の存在感を見せる。こちらも抑制的な演技だが、内面の様々な心理がにじみ出てくるような演技だ。

2人が顔を合わせるシーンはそれほど多くはないが、それでも両者の静かな迫力がスクリーンに満ちあふれる。

そんな2人の調査と並行して、モハメドゥの収容所生活の様子も描かれる。特にマルセイユに住んでいたという同じ収容者との交流が印象深い。お互いに周囲を仕切られた運動場越しに会話をするだけで顔も知らない。それはモハメドゥにとって唯一の楽しい時間だったのだが……。

回想シーンも挿まれる。悪名高き収容所に収監されてからのモハメドゥの日々を、スタンダードサイズで描く。その画面の狭さによって、囚われの身となった彼の息苦しさがダイレクトに伝わってくる。

ハメドゥは、独学で英語を覚え、テレビで仕入れたジョークを飛ばす。普通の映画なら彼の無実は明らかで、アメリカ政府が強引に犯人に仕立て上げたと見せるかもしれない。だが、本作では終盤まで彼の怪しさも際立たせる。それもサスペンスとしての魅力を引き立てる。モハメドゥ役のタハール・ラヒムの迫真の演技も特筆ものだ。

終盤になって、ついにナンシー、スチュアート両者ともに真実にたどり着く。実はモハメドゥは自白をしていたのだ。だが、そこには裏があった。それはおぞましい事実だ。フラッシュ映像などを使い抑制的に描かれてはいるが、それでも十分に身の毛がよだつ場面が続く。思わず目を背けたくなる。

しかも、その後にテロップで告げられる情報は、さらに衝撃的だ。こんなことが本当にあるとは……。それを知って怒りに打ち震えた。事実の重みをこれほど感じさせる作品はめったにない。

それでも救われるのはエンドロールで、モハメドゥ本人が登場することだろう。ボブ・ディランの歌を歌う彼の笑顔を見て、ほんの少しだけホッとすることができた。

予測不能のスリリングなサスペンスとしての魅力が十分。そして何よりも事実の重みが伝わる作品である。権力の暴走は恐ろしい。アメリカの闇を描いたドラマだが日本にも無縁ではないだろう。

 

f:id:cinemaking:20211102215328j:plain

◆「モーリタニアン 黒塗りの記録」(THE MAURITANIAN)
(2021年 イギリス・アメリカ)(上映時間2時間9分)
監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、ザカリー・リーヴァイ、サーメル・ウスマニ、シェイリーン・ウッドリーベネディクト・カンバーバッチ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://kuronuri-movie.com/

 


www.youtube.com