「劇場版 きのう何食べた?」
2021年11月23日(火・祝)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン5/H-11)
~同性カップルの日常を笑いとともに描く人気テレビドラマの劇場版
無事に検査入院から帰ってまいりました。いや、検査だから帰ってくるのは当たり前だと思うかもしれないが、実際に受けてみると「よくぞ無事に帰ってきた」と自分で自分を褒めてあげたくなるぐらいの大変な検査なのでした。まあ、病院の都合でホテルのような個室に入院できたのは良かったのですが(もちろん差額ベッド代なしで)。
さて、検査入院を終えて、しばらくは映画館に行けないと思ったものの……、近場の映画館なら何とかなるかと思い上映時間をチェック。しかし、観たい映画は時間が合わず、さして興味もなかった「劇場版 きのう何食べた?」を鑑賞するハメになってしまったのである。
劇場版とうたっているように、もともとは、よしながふみの漫画が原作のテレビドラマ(テレビ東京系で放送)。それをドラマ版のキャスト&スタッフで映画化した。弁護士と美容師のゲイのカップルのドラマである。ちなみに私はドラマは一度も観たことがない。
弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)は、お互いをシロさん、ケンジと呼び合う恋人同士だった。同居する2人にとって、史朗が作る美味しい料理を一緒に食べる時間が何よりも大切で幸せなひとときだった。そんな中、2人は史朗の提案で、賢二の誕生日プレゼントとして京都旅行へ行く。だが、あまりにも優しい史朗の態度に、喜びつつも不安な気持ちに襲われる賢二だった……。
このドラマ、ゲイのカップルのドラマという以前に料理のドラマである。シロさんが料理が得意という設定もあって、美味しそうな料理がたくさん登場する。カレーうどん、ローストビーフ、カルパッチョ、正月の黒豆……。空腹で観に行くと、えらい目に遭いそうだ。料理のレシピやうんちくも満載である。
ドラマ的にはコミカルでハートウォーミングな人情ドラマといった趣。序盤は2人が京都へ出かける。観光名所も随所に登場。その中で、一瞬2人の心がすれ違うが、深刻な事態には至らない。
その後は2人の日常を描くとともに、それぞれの職場や家族との関係などが映し出される。そこでは、賢二の存在を受け入れつつも複雑な心境を抱く史朗の両親など、ゲイのカップルが直面する厳しい現実も描く。その一方で、史朗と食材を分け合う近所の主婦や賢二の職場の仲間など、2人の関係を自然に受け入れている人々も登場する。
2人がけっこう年の行ったゲイ・カップルということで、それをふまえたネタもある。賢二は頭髪を気にして、いろいろともがくのだが、そのことが史朗の疑念を招いてしまう。序盤では史朗に対して賢二が疑念を抱き、終盤では賢二に対して史朗が疑念を抱くという逆転現象が面白い。
2人はそれぞれにお互いを失うことを極端に恐れている。それはどんなカップルにも当てはまることだろうが、やはり同性カップルだけに余計に切実なのではないか。そのあたりの心理もよく描けていると思う。
なにせテレビ版を未見なので、最初は戸惑うかと思ったのだが、意外にそれはなかった。もちろん、テレビ版を知っている人なら、いろいろとお楽しみもあるのだろうが、見ていなくても問題はないだろう。
そんな中で、最初は内野聖陽演じる賢二が典型的なお姉キャラなのがやや鼻についたのだが、それによって笑いが生まれるのは確か。しかも、それがあるからシリアスな場面での内野の演技が引き立つ効果もある。その演技の押し引きの巧さは、さすが文学座で鍛えられただけのことはある(今は辞めてるけど)。それに対する西島秀俊も安定の演技で、まさに2人は名コンビ。
山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、高泉淳子、田中美佐子、奥貫薫、田山涼成、梶芽衣子らの脇役陣もそれぞれに味のある演技を披露していた。
まあ、あえて言うなら、史朗が弁護士として扱う事件がホームレス絡みの殺人事件ということで、マイノリティーに対する世間の偏見を突く格好のネタなのに、あまり有効に使われていないのがもったいないところ。そこまで求めるのは欲張りだろうか。
ことさらに大きな事件が起きるわけではないが、全体を包むほんわかとした空気感はなかなかに良いものであった。テレビ版のファンならずとも、その独特の空気感にハマる人は多そう。事前にそれほど興味を引かれなかったものの、観に行って損はなかったのであった。
◆「劇場版 きのう何食べた?」
(2021年 日本)(上映時間2時間)
監督:中江和仁
出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、高泉淳子、松村北斗、田中美佐子、チャンカワイ、奥貫薫、田山涼成、梶芽衣子
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://kinounanitabeta-movie.jp/