映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ボクたちはみんな大人になれなかった」

「ボクたちはみんな大人になれなかった」
2021年11月14日(日)シネマ・ロサにて。午後2時30分より鑑賞(シネマ・ロサ2/D-10)

~ノスタルジックでセンチメンタルな若き日の恋の思い出

入院します……。といっても2泊3日で検査入院するだけなのだが、それにともなって退院後は仕事が忙しくて、1週間ぐらいは映画館に行けない感じ。よってブログも更新できないと思います。悪しからず。

というわけで、入院前最後の更新は変わった名前の作家が原作の映画。その名も燃え殻。残念ながら作品を読んだことはないのだが、その燃え殻が2016年に発表したデビュー作を映画化したのが「ボクたちはみんな大人になれなかった」である。

監督はCMやミュージックビデオを中心に活躍し、本作が映画監督デビューとなる森義仁。脚本は「そこのみにて光輝く」の高田亮が担当している。

ちなみに、本作はすでにNetflixで配信されている。

ノスタルジーあふれる青春ドラマだ。テレビ業界の片隅で働く46歳の佐藤(森山未來)は、かつての友人、七瀬(篠原篤)と再会する。それをきっかけに、かおり(伊藤沙莉)と過ごした青春の日々を思い出す。

このドラマ、特徴的なのは時間をさかのぼっていること。冒頭は2020年のコロナ禍の東京。そこで、かつての友人と再会した主人公の佐藤は過去を振り返る。

最初は2015年。担当した番組絡みの打ち上げパーティーで知り合った女と一夜を明かした佐藤。帰宅した彼を待っていたのは交際中の女性だった……。

続いて、今度は彼ががむしゃらに働いていた頃。結婚を約束した女性が自分の母親と佐藤を引き合わせるが、多忙な彼は腰を落ち着けて会うことができない。そのため、彼女との仲もおかしくなる……。

ドラマは、さらに時代をさかのぼる。七瀬のバーで仲間たちと楽しくワイワイやっていた頃。佐藤はその中の1人の女性と親しくなるが、実は彼女の正体は……。

というわけで、佐藤の女性関係を描いているわけだが、これらはその後のピュアな恋の布石に過ぎない。いや、時代をさかのぼっているから、布石ということはないな。中心的に描かれる恋の存在があまりにも大きくて、彼のその後の人生に微妙な影を落としているわけだ。

その恋とは1995年~1999年の5年に渡るかおりとの恋。それも小刻みに時間をさかのぼって描かれる。1999年、かおりはさよならも言わずに去ってしまう。「今度CD持ってくるからね」のひと言だけで。

そこから時間をさかのぼって2人の恋の顛末が描かれる。1995年、お菓子工場に勤めていた佐藤は雑誌に掲載されている文通相手募集のコーナーがきっかけで、かおりと文通するようになる。彼女は小沢健二のアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』が好きで、「犬キャラ」と名乗っていた。

まもなく2人は実際に会ってみることにする。渋谷でWAVEの袋を目印に待ち合わせる。その初対面の瞬間のドキドキ感ときたら……。

いや~、たまらんですなぁ。きっと誰にでも思い出があるはず。そんなふうにこの映画は、世代を超えて若き日のノスタルジックでセンチメンタルな恋に観客を誘うのだ。

「普通が嫌だ」という風変わりなかおりの出現で、佐藤は生まれて初めて一生懸命に頑張りたいと思う。テレビ業界への転職を試み、見事に成功する。そのお祝いに彼女のほうから言い出して、渋谷のラブホテルに行く2人。天井に星座のある部屋での、初々しい2人の姿が微笑ましい。

それにしても時間をさかのぼるということは、これほどノスタルジーをかき立てるのか。恋の結末がわかっているから、逆にそれまでの日々が愛おしく、キラキラと輝いてくる。

おまけに、「あれは誰だ?」と思う登場人物が出現し、主人公とどんなかかわりがあったのかも後になってわかるという謎解き的な展開もある。これも時間をさかのぼったことによる効果である。

どんな世代の共感も呼びそうなドラマではあるものの、やはり現在40代後半あたりのドンピシャ世代にとっては、格別なものがあるだろう。何しろ小沢健二の音楽、WAVEの袋、シネマライズラフォーレ原宿タワーレコード、ポケベルなど90年代カルチャーが満載。ディテールにこだわって作られているから、懐かしさで胸が締めつけられる観客も多いはず。

結局のところ、今思い返せば気恥ずかしい恋だし、心残りもたくさんある。しかし、そういう思い出があるからこそ今の自分がいるわけで、それはそれで悪くはないか。

最後まで観ると、ほろ苦さの中にもそんな肯定感が漂ってくるのであった。

「ボクたちはみんな大人になれなかった」というタイトルにあるように、大半の観客にとって、今の自分はかつて思い描いていた自分とは違うはず。だからこそ、なおさらこのドラマに心を揺さぶられるのだろう。

森山未來は20代前半から46歳までを違和感なく演じていて、さすがの演技。そして伊藤沙莉は相変わらず抜群の存在感を見せている。なんであんなに魅力的なんだろう。いつも見るたびに思ってしまう。その他の脇役に加え、チョイ役で出ている有名俳優にも注目。

 

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◆「ボクたちはみんな大人になれなかった」
(2021年 日本)(上映時間2時間4分)
監督:森義仁
出演:森山未來伊藤沙莉東出昌大、SUMIRE、篠原篤、平岳大片山萌美岡山天音渡辺大知、徳永えり原日出子高嶋政伸ラサール石井大島優子萩原聖人
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ https://bokutachiha.jp/

 


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