映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「雨にゆれる女」~第29回東京国際映画祭(アジアの未来部門)

「雨にゆれる女」~第29回東京国際映画祭(アジアの未来部門)
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて。2016年10月27日(木)午後6時50分より鑑賞

心の奥底に得体のしれない闇を抱えながら、寡黙に生きる男。そう聞くと、つい松田優作を連想してしまう。つい最近、角川映画祭で『野獣死すべし』を大スクリーンで観たものだから、なおさらそう感じてしまうのだ。

第29回東京国際映画祭アジアの未来部門で上映され、その後、テアトル新宿などで一般公開された「雨にゆれる女」(2016年 日本)の主人公を見た瞬間、「あ、コレ、松田優作に演じさせたかったな」などと思ってしまったオレなのであった。

主人公は本名を隠し、「飯田健次」という別人として鉄工所で働く男(青木崇高)。他人とのかかわりを拒否し、倉庫のような家にひっそりと暮らす彼のもとに、ある夜、突然同僚がやってきて、女(大野いと)を預かってほしいと強引に置いていく。その謎めいた女の登場で健次の生活は狂い始める。お互いに本当の姿を明かさないまま、次第に惹かれ合っていく2人だったが……。

健次と名乗る主人公は、明らかに深い闇を抱えている。他人とのかかわりを拒否するがゆえに、ミステリアスな暮らしを送っている。ふだんは地味な眼鏡をかけて、ほとんど口を開くことはない。そんなキャラクターから、つい松田優作を連想してしまったわけだが、青木崇高もけっして悪くない。世間的には、優香と結婚したことが話題になったが、以前からなかなか存在感のある役者だった。今回も危険な香りをスクリーンに漂わせている。

そんな彼の前に大野いとが演じる謎の女が出現し、健次は少しずつ変わっていく。頑なだった心がほぐれて、彼は自らの不幸な身の上を語る。それは姉と婚約者にまつわる衝撃的な出来事である。

そして、やがて女にもある秘密があることがわかって、事態は思わぬ方向に転がっていく。

ということで、ストーリー的には、テレビの2時間サスペンスあたりでも出てきそうなお話だ。とりたてて、どうってことはない。

ただし、それを独特の映像美で描いているところが印象的だ。健次の家の冷たい空気感、闇を抱えた男女の息づかいなどが、陰影ある映像で表現され、何とも言えぬ悲しみと切なさを立ち昇らせている。大野いとのいかにも薄幸そうな感じも良い。

ラストの展開もありがちではあるが、健次の死んだ姉の姿などを見せて、幻想的かつ情感あふれるエンディングに仕上げている。

何でも、この映画の半野喜弘監督は音楽家で、ホウ・シャオシェンジャ・ジャンクー等の作品の音楽を担当してきたらしい。それだけに音楽の使い方もツボを心得ている。初監督作品とは思えない出来だ。

ただし、脚本はもう少しヒネってくれないとねぇ~。もしも次回作を撮るなら、そのへんに期待したいところです。

●今日の映画代、0円。関係者向け上映なので。