映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「悪女 AKUJO」

「悪女 AKUJO」
角川シネマ新宿にて。2018年2月10日(土)午後12時50分より鑑賞(シネマ1/G-13)。

基本的には深みのある人間ドラマが好きなのだが、たまにハジケた映画が観たくなる。アクション映画もまた然り。ただし、ただの肉体バカが演じるバカアクション映画は御免被りたい。

今回観たのは、チョン・ビョンギル監督によるバイオレンス・アクション映画「悪女 AKUJO」(THE VILLAINESS)(2017年 韓国)である。

藤原竜也伊藤英明共演で昨年公開された入江悠監督の「22年目の告白 私が殺人犯です」。もともとは韓国映画で、そのオリジナル版である「殺人の告白」の監督・脚本を担当したのがチョン・ビョンギル監督だ。

アクション映画の肝は、言うまでもなくアクションシーンにある。その点、この映画はすごい。まず冒頭7分間のノンストップ・アクション。主人公のスクヒ(キム・オクビン)という女性が、暴力団のアジトに単身で乗り込み、50人以上もの敵をバッタバッタと倒していくのだが、それをスクヒ目線で見せるのだ。

カメラがスクヒの目となって、とらえたものを映し出す。スクヒ自身は手ぐらいしか映らない。おまけに、それをワンカットの長回しのように映す。まるでVR映像だ。この斬新なカメラワークが、破格の緊張感と迫力を生み出している。ここからオレは一気にスクリーンに引き込まれてしまった。

その後、スクヒは当局によって拘束され、国家が運営する暗殺者養成施設に送られる。そこで学んだ後、暗殺者として10年間仕事をすれば、あとは自由になれるというのだ。スクヒは脱出を図るもののすぐに連れ戻される。

というわけで、そこからはスクヒの暗殺者としての訓練の日々が描かれる。冷酷な女指導官、ライバルの意地悪な女、スクヒに好意を持つ国家情報院の男など脇役も魅力的なキャラでドラマを盛り上げている。

それと並行して登場するのが、彼女の過去だ。どうして、スクヒは一人で暴力団を壊滅させるような行動に出たのか。彼女の父親が殺されたことに端を発し、育ての親で自分を殺し屋に仕立てた男ジュンサン(シン・ハギュン)との出会い、彼に対する恋心と結婚など、過去の様々な出来事がところどころに挿入される。そして、そのジュンサンが敵対組織に殺害されたことが、冒頭の殺戮劇につながったことが明らかになる。

つまり、スクヒはもともジュンサンに仕立て上げられた殺し屋だったのだ。だから、冒頭のような活躍ができるわけ。それに加えて暗殺者養成施設で鍛えられたのだから、まさに最強の殺人マシーンなのである。

そんな過去と現在進行形のドラマを交互に描きつつ、その間もアクションシーンが冴えわたる。彼女が養成施設を出る直前に命じられた暗殺では、スクヒと追っ手がバイクに乗って日本刀で斬り合うのだ。そのユニークすぎるバトルを、これまた斬新なカメラワークで見せる。いったいどうしたら、こんな映像が撮れるのだろうか。チョン監督は、スタントマン出身だというが、それにしても驚異的なアクションシーンである。

養成施設を出たスクヒは別人の舞台女優となって、殺し屋家業を始める。彼女は施設に入る時点で妊娠しており、その後出産。ウネというその幼い娘と一緒に暮らす。そんな彼女にある男が接近する。隣に越してきた謎の男だ。

ここからは恋愛ドラマが展開される。その見せ方もなかなかうまい。実は、スクヒに接近する男は、映画の初めの方から何度も顔を出す国家情報院の男ヒョンス(ソンジュン)。彼がスクヒに接近するのは職務上のことだが、それでも彼女に気があることはすでに示唆されている。

そのことから、2人のロマンスに厚みが出てくる。切なさや微笑ましさ、繊細な恋愛の機微、さらにスパイ物語のような騙し騙されの駆け引きなども見えてくるのである。

チョン監督自身は、本作の物語にリュック・ベッソン監督作の「ニキータ」の影響があると語っているようだが、それ以外にも、様々な殺し屋映画、犯罪映画、スパイ映画、恋愛映画などの要素が、本作にはブレンドされているように思える。

ということは、ある意味、本作の設定やストーリー展開自体には、それほど新味はないともいえるわけだが、観ている間はまったくそうしたことを感じさせず、観客の目をスクリーンに釘付けにするのだから大したものだ。

後半、スクヒはある暗殺を命じられる。そこでは花嫁姿で銃をかまえる。何というケレンにあふれたシーンだろう。そして、彼女のターゲットになった人物をめぐって、混乱の終幕へと突入していく。

いったい何が真実で何が嘘なのか、曖昧模糊とした雰囲気の中で迎えるクライマックス。これもまた破格のアクションシーンだ。ボンネットにスクヒを乗せたまま疾走する車。そこからバスの中へと戦いの場を移し、壮絶すぎるバトルが繰り広げられる。

ここでも相変わらず見事なカメラワークが見られるわけだが、それを可能にしているのが、スクヒ役キム・オクビンのキレまくったアクションだ。2009年のパク・チャヌク監督の「渇き」に出演していたが、何でもテコンドーとハプキドー(韓国の武道)の黒帯とのことで、その身体能力をいかんなく発揮。ほとんどノースタントでこなしたというから見事なものだ。

というわけで、斬新なカメラワークによるアクションシーンに加え、様々な要素を織り込んだドラマが展開。ただの肉体バカが演じるバカアクション映画とは、大違いなのだ。

過去を捨て、幸せをつかみかけた女暗殺者の運命はどうなるのか。タイトルにあるように本作は悪女に関するドラマだが、そこには哀切が漂っている。ラストシーンのスクヒの姿は、美しく、怖ろしく、そして切ない。オレは今もあの表情が忘れられないのである。

●今日の映画代、1300円。TCGメンバーズカードの会員料金。

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◆「悪女 AKUJO」(THE VILLAINESS)
(2017年 韓国)(上映時間2時間4分)
監督・脚本・製作・アクション監修:チョン・ビョンギル
出演:キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン、キム・ソヒョン、キム・ヨヌ、チョ・ウンジ、イ・スンジュ、チョン・ヘギュン、ミン・イェジ、パク・チョルミン、キム・ヘナ
角川シネマ新宿ほかにて公開中
ホームページ http://akujo-movie.jp/