「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」
新宿武蔵野館にて。2018年6月12日(火)午前10時より鑑賞(スクリーン3/B-4)。
久々にドキュメンタリー映画を観た。別にドキュメンタリー映画が嫌いなわけでも、意識的に避けているわけでもないのだが、何せお金に余裕がないのでどうしても劇映画を優先することになってしまう。
そんな中、今回劇場に足を運んだのは、オレが目撃したことのある人物が取り上げられていたからだ。「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」(2017年 日本)。デヴィッド・ボウイやイギー・ポップ、マーク・ボラン、忌野清志郎、YMOをはじめ、世界的アーティストのポートレートやアルバム・ジャケットを数多く手掛けてきた日本人写真家、鋤田正義氏の活動を追ったドキュメンタリーである。
この鋤田氏、今年5月に満80歳を迎えたが、今も現役で活躍している。しかも「オレは世界的写真家だ!」などと偉ぶるところはまったくない。交流のあるミュージシャンのライブ会場にはフットワーク軽く足を運んで撮影をする。オレが目撃したのもそんな現場でだった。
この映画の構成はオーソドックスだ。本人の話に加え、被写体になった数々のミュージシャン、一緒に仕事をした人たちなど様々な人々の証言から、鋤田氏の活動の軌跡と、作品にまつわるエピソードを明らかにしていく。
日本はもとより、アメリカ、イタリアなど世界各地で開かれた展覧会に鋤田氏自ら足を運び、現地にいる所縁の人々と会話を交わす場面なども登場する。もちろん過去に撮影した写真もたくさん登場する。
意外な話も満載だ。彼の創作の原点は福岡の実家で店番をしながら、お客さんたちを観察していたことにあるらしい。また、母親を被写体にした高校時代の写真も、写真家としての原点にあるらしい(実際に、その写真が素晴らしい!)。
商業写真を手がけていた初期の頃の話も興味深い。原宿を拠点に先進的なクリエーターと鮮烈な作品を生み出している。その後、海外へ飛び出してマーク・ボランやデヴィッド・ボウイ、イギー・ポップらを撮影したエピソードも興味深い。サディスティック・ミカ・バンドのアルバム「黒船」やYMOのアルバム・ジャケットなどの制作秘話も語られる。このあたりは、写真だけでなくロック音楽に関心のある人には、たまらない話だろう。
映画関連では、ジム・シャームッシュ監督の「ミステリー・トレイン」のスチールカメラマンを務めた際のエピソードが面白い。役者たちはわざわざ同じ演技をもう一度して、それを鋤田氏が写真撮影したという。その成果が写真集として結実している。ジャームッシュ作品で、写真集を制作したのは後にも先にもそれだけ。それほど優れた写真だったのだ。
そうした数々のエピソードを通じて伝わってくるのは、鋤田氏が常に好奇心を持ち続けてきたということだ。フィルムにこだわる写真家が多い中で、彼はデジタル機材も積極的に取り入れる。若々しく柔軟な姿勢を今も持ち続けているのである。
そして、被写体に対して愛情を持ち、その深層にあるものをカメラに収める。被写体となるアーティストたちは、彼の前で自らをさらけ出す。それを可能にしたのは、彼の人間的な魅力だろう。外見はどこからどう見ても普通のおじさん。若い頃も気のいい兄ちゃん風で、カリスマ性のかけらも感じられない。だが、なぜか人を惹きつける。観客もその不思議な鋤田氏の魅力に引き込まれてしまうのではないだろうか。
音楽や映画、写真のファンはもちろん、クリエーターを目指す若い人などにもぜひ見てもらいたい。きっと、何か創作のヒントになるものが得られるはずだ。
まあ、そんな難しいことは抜きにしても、単純に面白いドキュメンタリーですヨ。我が敬愛するミュージシャン、頭脳警察のPANTA氏をはじめ、多彩なジャンルの様々な人達が次々に登場して、興味深い話をするのだから(下記の出演者名をご覧ください!)。
◆「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」
(2017年 日本)(上映時間1時間55分)
監督:相原裕美
出演:鋤田正義、布袋寅泰、ジム・ジャームッシュ、山本寛斎、永瀬正敏、糸井重里、リリー・フランキー、クリス・トーマス、ポール・スミス、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏、MIYAVI、PANTA、アキマ・ツネオ、是枝裕和、箭内道彦、立川直樹、高橋靖子
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ http://sukita-movie.com/