映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「セラヴィ!」

セラヴィ!
新宿シネマカリテにて。2018年7月11日(水)午後2時5分より鑑賞(スクリーン2)/B-2)。

~トラブル満載の結婚式が巻き起こす笑いと人間模様

自分で式を挙げたこともないし、他人の式にもほとんど出席したことがないので実感はないのだが、どうやら結婚式とはなかなかに面倒なものらしい。だが、面倒だからこそ、そこには様々な面白いネタが転がっているに違いない。結婚式を舞台にした映画が多いのはそのせいだろう。

車いすの大富豪とその介護人の交流をユーモラスに描いた「最強のふたり」のエリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ監督コンビによる映画「セラヴィ!」(LE SENS DE LA FETE)(2017年 フランス)は、結婚式を舞台にしたコメディーだ。

式場は17世紀の古城。豪華絢爛な結婚式をプロデュースするのは、30年間に渡って数々の結婚式を仕切ってきたベテラン・ウェディングプランナーのマックス(ジャン=ピエール・バクリ)だ。だが、どうも雲行きが怪しい。

映画の冒頭、マックスは式のプロデュースを依頼してきたカップルと話し合う。カップルは、細かなことに注文を付けて、何とか費用を削減しようとする。それにブチ切れたマックスは、「それならメイン料理もなくして、各自料理を持ち寄ればいい!」などととんでもないことを言いだすのだ。どうやら彼は何か問題を抱えているらしい。

さて、式場の古城にやってきたマックスは、式の成功に向けてスタッフに指示を出す。だが、最初から思い通りに行かない。それもそのはず、集まったスタッフたちはいずれもクセモノ揃い。というか、彼らも揃いも揃ってポンコツだったのだ。

例えば、マックスの腹心ともいうべき黒人女性は、すぐに他のスタッフともめ事を起こす。しかも、唐突に笑えない冗談を繰り出したりもする。あるいは、昔なじみのカメラマンは、式の料理に手を出したり、「出席者がスマホで撮影するのが気に食わない」などと言って、まともに仕事をしようとしない。一方、バンドのリーダーはやたらにプライドが高くて自己中心的。

そんなスタッフのみならず、新郎もクセモノだ。彼もまた典型的な自己チュー男。とくれば、当然、同じ自己チュー男のバンドリーダーと険悪な雰囲気になる。それどころか論文のように分厚い挨拶文を示して、「これを読むから段取りを変えろ!」とマックスに要求する始末なのだ。

こんな連中が集まったのだから、何も起こらないはずがないだろう。やがて式がスタートするが、それはトラブルの連続。そのあまりにもバカバカしいトラブルがマックスを困らせ、同時に観客を笑わせる。

その中でも最大のトラブルは、冷蔵庫のコンセントが抜けて(あるいは誰かが故意に抜いた?)、メイン料理の肉が腐ってしまうことだろう。おかけでそれを食べたバンドメンバーは倒れ、マックスは代わりの料理を調達しなければならなくなる。

その一方で、なぜか臨時ウェイターとして雇われたマックスの義弟は、こともあろうに新婦を口説き始める。彼と新婦は元同級生で、どうやら昔から気があったようなのだ。それにしても何たる暴走ぶり!

こうして現在進行形で起きる数々のトラブルを、生き生きとテンポよく、軽妙に描いていく。おかげで、終始笑いが途切れない。はたして、マックスがトラブルをどう乗り越えるのかというハラハラ感も味わえる。

終盤になるにつれて、ドラマはほとんどカオス状態に突入する。マックスの腹心の女性は、それまで険悪だったバンドリーダーと変な雰囲気になる。カメラマンは会場で出会い系アプリを使って、参列者の女性を物色する(そのお相手が予想外でまた笑える)。

そして飛び出す新郎のあまりにも奇抜すぎる余興。自ら演じるそのパフォーマンスは幻想的でロマンチック。あまりの美しさにしばし目を奪われるのだが、その先に待っているのはまたしてもとんでもないトラブルだ。あ~あ、あの2人やっちまったぁ~。

だが、このドラマ、ただのドタバタでは終わらない。終盤の停電騒ぎを救うのは、スタッフの中にいたあるアジア系の移民たち。前半からチラリとそのプロフィールが語られるのだが、それがまさかここで生かされるとは!!! 

この心温まるサプライズに加え、マックスが移民の雇用に関して極度にナーバスになる展開など、多民族国家であるフランスの光と影も描かれている。

さて、最後の最後に待っているのはマックス自身の人生模様だ。実は彼はそろそろ引退しようと思っていたのだ。おまけに、スタッフの女性と不倫もしていた。それが、このトラブル続きのカオスのような結婚式を通して、ある決断をすることになる。昔なじみのカメラマンの決断とも相まって、それが温かな余韻を残してくれるのである。

様々な人間のおバカさで観客をクスクス笑わせる映画だが、そこには欠点だらけの人間を優しく見つめる視線がある。そして、さりげない人間ドラマも盛り込んで心を温めてくれる。個性派の役者たちの演技も見ものだ。「最強のふたり」が好きな人なら、きっと気に入るはず。

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◆「セラヴィ!」(LE SENS DE LA FETE)
(2017年 フランス)(上映時間1時間57分)
監督・脚本:エリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ
出演:ジャン=ピエール・バクリ、ジル・ルルーシュ、ジャン=ポール・ルーヴ、ヴァンサン・マケーニュ、アルバン・イヴァノフ、バンジャマン・ラヴェルネ、アイ・アイダラ、スザンヌ・クレマン、エレーヌ・ヴァンサン、ジュディット・シュムラ、ウィリアム・レブギル
*シネクイント、シネマカリテほかにて全国公開中
ホームページ http://cestlavie-movie.jp/