映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「見えない目撃者」

「見えない目撃者」
グランドシネマサンシャインにて。2019年9月23日(月・祝)午後1時45分より鑑賞(スクリーン8/D-8)。

~盲目の女性の捜査劇。日本映画には破格の途切れないスリルと怖さ

殺人の追憶」「チェイサー」「オールドボーイ」など、韓国のサスペンス・スリラーものには秀作が多い。やりすぎ感満載なのも含めて、文句なしに面白い作品揃いだ。そんな韓国のサスペンス・スリラーと共通するものを感じた日本映画が、「見えない目撃者」(2019年 日本)である。

この映画は、2011年の韓国映画「ブラインド」をリメイクした作品。中国でも2015年に「見えない目撃者」としてリメイクされている。残念ながらどちらも未見なので比較はできないが、日本版はオリジナルの良さを踏襲しつつ、様々な工夫が施されているようだ。

冒頭に映るのは射撃訓練の場面。訓練中の浜中なつめ(吉岡里帆)は、まもなく警察学校を卒業して警察官になる。続く場面は、その卒業式のシーン。まさに希望に満ちたシーンである。だが、次の瞬間、ドラマは暗転する。なつめは交通事故を起こし、同乗していた弟を亡くす。自身も視力を失い、警察官の道を絶たれてしまう。

それから3年後、自宅でテープ起こしの仕事をするなつめだが、深い心の傷を抱えたままだ。弟の墓参りに行くこともできない。そんな中、ある夜、車の接触事故に遭遇する。その時、なつめは車の中から助けを求める少女の声を耳にする。そのことを警察に伝えるのだが、警察はなつめが目が見えないこともあって真剣に聞き入れてくれない。それでもなつめは少女を救おうと、現場に居合わせたもう一人の目撃者である高校生・国崎春馬(高杉真宙)を見つけ出す。なつめは春馬の協力を得て、少女の捜索に挑む。

日本映画にしては久々の本格派のサスペンス・スリラーだ。ありがちだったり都合のよすぎる展開もあるのだが、それを凌駕する面白さがある。スリルの波状攻撃が続き、ハラハラドキドキ感が途切れない。「そこまでやるか!?」というような展開もあって、最後まで飽きることがなかった。

面白さの要因の一つは、何といっても目が見えないなつめの捜査劇だ。音や匂いなど視覚以外の感覚から感じ取った情報と、かつて警察官として身につけた知識や勘を頼りに、事件の真相に迫っていく。

そんな彼女の相棒になる春馬は、落ちこぼれのスケボー少年。最初は関わり合いになりたくないと思うものの、次第に積極的になつめに協力するようになる。この2人の連携の面白さもこのドラマの魅力だ。

そして、なつめにはもう1人、いや1匹の相棒がいる。彼女に常に寄り添う盲導犬だ(スイマセン。名前を失念しました)。コイツがなかなかの名演で、特に終盤は大活躍する。カンヌ国際映画祭ならパルム・ドッグ賞ものの演技である。

当初はなつめの言葉を信じなかった警察だが、その後彼女の証言を裏付けるような出来事が起こり、本格的に捜査に乗り出す。それに携わるのがベテラン刑事の木村(田口トモロヲ)と、中堅刑事の吉野(大倉孝二)だ。積極的に捜査に乗り出す木村に対して、吉野は事件化するのを避けようとする。このあたりの対照もありがちといえ、なかなか面白い。

そして事件は連続少女失踪事件から、猟奇殺人事件へと突入していく。その過程では怪しげな人物の追走劇があったり、春馬が車にひき殺されそうになるなど、様々な仕掛けが用意されてスリルを高める役割を果たす。

また、少女たちが失踪する社会的背景なども、無理なくドラマに挿入されている。事件の背景となったかつての猟奇殺人事件や、宗教めいた犯行動機なども描かれるので、下手をすると詰め込み過ぎになりそうなのだが、巧みな脚本によってそうはなっていない。

やがて犯人が浮上するものの、そこでドラマは終わらない。なつめはその犯人に納得せず、さらに追及を続ける。その結果、ついに真犯人が浮上する。この展開もありがちといえばありがち。しかも個人的には真犯人の目星は、途中でほぼついてしまった。にもかかわらず、最後まで目が離せなかった。その後も様々な仕掛けが飛び出すからである。

終盤は猟奇的な真犯人となつめ、春馬、そして刑事たちとの対決がドラマの中心になる。そこもスリルの波状攻撃が続く。特に面白いのが盲導犬を連れたなつめが地下鉄の駅構内で犯人に追いつめられるシーン。そこでは離れた場所にいる春馬がスマホを使ってなつめの逃走を支援する。何ともスリリングで息を飲む場面である。

森淳一監督の演出は奇をてらったものではないが、その場その場にふさわしい映像でスリルを盛り上げるなど職人芸的な技が光る。なつめが感覚でつかんだ風景を、線画のような映像で見せる仕掛けも面白い。

クライマックスは犯人のおぞましい狂気が宿る洋館での追跡&逃走劇。これまたギリギリの場面が続く。一瞬ホッとしたら、次にはまた新たな危機が迫る展開が続き、「そこまでやるか!?」の思いが最高潮に達する。

そして、そこで思わず「そう来たか!」と叫びそうになった巧みなアイテムの使い方。冒頭の射撃訓練シーンと重なる拳銃はともかく、弟の形見をあんな形で繰り出すとは。うーん、参りました。

ラストでは、傷ついたなつめの立ち直りをクッキリと示して、観客を安心させてくれる。本当によくできたサスペンス・スリラーである。

主演の吉岡里帆の演技をじっくり見たのは初めてだが、想像以上の演技力だった。キャリアを重ねれば重ねるほど輝きそうな感じがする。高杉真宙も安定の演技。その他の脇役たちもいずれも存在感があった。そんな中、「検察側の罪人」でサイコパスの役を演じて強烈な印象を残した酒向芳が、一転して刑事、しかも管理職を演じているのがおかしかった。

日本映画にしては破格のスリルと怖さを持つ映画だと思う。この手の映画が好きな人なら観て損はない。ただし、猟奇殺人事件を扱うだけにエグイ場面もあり(R-15指定)、人がたくさん死ぬので、そこはご注意を。

 

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◆「見えない目撃者」
(2019年 日本)(上映時間2時間8分)
監督:森淳一
出演:吉岡里帆高杉真宙大倉孝二浅香航大、酒向芳、松大航也、國村隼渡辺大知、柳俊太郎、松田美由紀田口トモロヲ
新宿バルト9ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.mienaimokugekisha.jp/