映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「スウィング・キッズ」

「スウィング・キッズ」
シネマート新宿にて。2020年2月25日(火)午後6時40分より鑑賞(スクリーン1/D-11)。

~ユーモラスなダンス・ムービーに込められた過去の悲しい出来事と平和への願い

日本で2012年に公開された韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」。40代のヒロインが、余命幾ばくもない高校時代の友人の願いを叶えるため、かつての仲間たちを捜し出しながら、25年前の輝いていた高校時代を回想するドラマで、日本でもヒットした。ヒロインの高校時代を演じたシム・ウンギョンは、「新聞記者」で毎日映画コンクールの女優主演賞に選ばれるなど日本でも大活躍中だ。

この「サニー 永遠の仲間たち」は、大根仁監督で「SUNNY 強い気持ち・強い愛」として日本でリメイクされている。こちらもオリジナル同様にノスタルジックで楽しい映画ではあったのだが、両者には決定的な違いがある。オリジナルには、かつての韓国の歴史が織り込まれ、社会性も包含した作品だったのである。

こうして娯楽性と社会性を両立させるのは韓国映画の真骨頂だ。アカデミー賞で話題になった「パラサイト 半地下の家族」もまさにそうした作品だろう。「サニー 永遠の仲間たち」のカン・ヒョンチョル監督による「スウィング・キッズ」(SWING KIDS)(2018年 韓国)も、一見ただのダンス映画かと思いきや、強いメッセージ性も込められた映画だ。

本作の舞台となるのは1951年、朝鮮戦争中の巨済(コジェ)捕虜収容所。映画の冒頭で当時の状況が簡潔に語られるので、予備知識のない人でも十分に楽しめるはずだ。

この収容所に赴任してきた新任所長は、対外的なイメージアップのために捕虜たちによるダンスチームの結成を思いつく。おりしも彼の部下の下士官には、ブロードウェイのタップダンサーだったジャクソン(ジャレッド・グライムズ)がいた。そこで彼に命じてメンバーを選考するのだが、オーディションに集まってきたのはかなり個性的な面々。

その中から、行方不明になった妻を捜す民間人捕虜のカン・ビョンサム(オ・ジョンセ)、ダンスの実力を持ちながら栄養失調の中国人捕虜シャオパン(キム・ミノ)が選ばれる。4ヵ国語を操る無認可通訳士ヤン・パンネ(パク・ヘス)もそこに加わる。さらにジャクソンに目を付けられた収容所で一番のトラブルメイカーのロ・ギス(D.O)も加入し、曲がりなりにも寄せ集めのダンスチーム“スウィング・キッズ”が誕生するのだが……。

このダンスチーム、最初から波乱続きだ。何しろリーダーのジャクソンからして、所長に無理やり命令されて仕方なくチームを結成する。ロ・ギスは北朝鮮の体制を強く支持しており、「敵のアメリカのダンスなんか踊れるか」と反発している。それ以外にも様々な要因があって、チームがスタートしても紆余曲折。波乱の連続だ。

そんなチームの様子を、メンバーたちの個性的なキャラを生かしながらユーモアたっぷりに描いていく。メンバーのみならず、収容所の様々な人たちも個性的だ。漫画チックな人物もたくさん登場して、そこから自然に笑いが生まれてくる。

中盤のハイライトは記者たちを前にしたユーモラスなダンス。策略にはまって捕らわれの身となったジャクソンを自由にするためのダンスだ。それはひたすら楽しい爆笑のダンス。

そうなのだ。本作は言うまでもなく本格的なタップダンスが堪能できるダンス・ムービーなのである。素晴らしいテクニックを駆使した迫力のダンスが満載。特にリーダーのジャクソンのタップは圧巻だ。演じるジャレッド・グライムズとは何者かと思ったら、ブロードウェイミュージカルの最優秀ダンサーに授与される「アステア賞」を受賞したダンサー兼俳優とのこと。そりゃあ、巧いはずだわ。

そして、トラブルメイカーのロ・ギスを演じるのは、K-POPグループ「EXO」のD.O。こちらもなかなかのダンスを見せている。中でも印象的なのが、デヴィッド・ボウイの「モダン・ラブ」に乗せて、ロ・ギスとヤン・パンネが踊りまくるシーン。ヤン・パネを演じるパク・ヘスも見事な輝きを放っている。

様々な出来事を経て、メンバーたちは少しずつ絆で結ばれていく。だが、そこで影を落とすのが、当時の収容所をめぐる状況だ。南北が激しく争い、そこにアメリカや中国も加わる中で、収容所内でも激しい対立が起きる。きな臭いテロの話も浮上する。その黒い渦にダンスチームも巻き込まれていく。

クライマックスはクリスマスのイベント。そこで「スウィング・キッズ」は一世一代のダンスを披露する。だが……。

最後に用意されているのは息を飲むほどの衝撃的な出来事だ。ただ楽しいだけのダンス・ムービーを期待していた人にとっては、目を背けたくなるかもしれない。だが、しっかり目に焼き付けて欲しい。それこそが作り手が伝えたかったメッセージに違いないのだから。

劇中にはイデオロギー対立の不毛さを嘆くセリフが何度か登場する。イデオロギーや国籍、人種(ジャクソンは黒人で軍隊内でも差別されている)などの対立の愚かさを明確に提示したのが、あの衝撃の出来事といえるだろう。

そして、その後の後日談から再び過去に返って、リアルタイムでは描かれなかったダンスバトルをここで見せる心憎さよ。まさしくダンスがすべての対立を乗り越える可能性を再度示し、余韻を残してドラマは終わる。エンドロールで流れるビートルズの「フリー・アズ・ア・バード」が心に染みる。

本作は心躍る優れたダンス・ムービーであり、同時に過去の歴史をきっちりと刻んだ社会性を持った映画である。さすが韓国映画という感じ。はたして今の日本でこうした映画ができるのだろうか。うーむ。

 

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◆「スウィング・キッズ」(SWING KIDS)
(2018年 韓国)(上映時間2時間13分)
監督・脚本:カン・ヒョンチョル
出演:D.O.、ジャレッド・グライムズ、パク・ヘス、オ・ジョンセ、キム・ミノ
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ http://klockworx-asia.com/swingkids/