映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「マーシュランド」

 「マーシュランド」
2020年5月27日(水)GYAO!にて鑑賞。

独裁政権の影が残るスペインの異様な緊張感に満ち満ちた犯罪ミステリー

もう数年、はてなブログを使っているのに、いまだによくわからないことが多い。☆は何となく理解したが、「はてなブックマーク」ってなんだ?イマイチの理解度。とはいえ、☆を付けたり、ブックマークして下さる皆様ありがとうございます。もちろん、そういうアクションをせずとも、読んでくださる皆さまにも感謝です。

さて、では「おウチで旧作鑑賞」シリーズ第12弾。「マーシュランド」(LA ISLA MINIMA/MARSHLAND)(2014年 スペイン)という犯罪ミステリーである。スペイン内戦後長期に渡って続いたフランコ独裁政権の空気感が背景に流れているドラマだ。

スペインの田舎町に2人の刑事がやってくる。ベテラン刑事のフアン(ハビエル・グティエレス)とマドリードから左遷されてきたペドロ(ラウール・アレバロ)。地元の少女2人が行方不明となった事件の捜査のために派遣されたのだ。まもなく2人の少女は無残な死体で発見される。2人の刑事は、過去にも同様の少女失踪事件が起こっていることを突き止めるが、様々な妨害が捜査の行く手を阻む……。

猟奇的な少女殺人事件をめぐる犯罪捜査のミステリー劇である。本作で最も注目すべきは、全体の空気感の作り方である。冒頭の町の上空からの俯瞰や飛び去る鳥の群れなど工夫を凝らしたショットの数々により、不穏で重苦しい雰囲気がスクリーンを支配する。それが全編に渡って異様な緊迫感を生み出している。

そして事件を巡って怪しい人物が次々に登場し、謎解きを混乱の渦に巻き込んでいく。少女たちと関わりがあるらしい二枚目男、被害者の両親、はては自称霊能力者まで登場する。主要な登場人物はもちろん、ただの一般の町の住人まで何やら一癖も二癖もありそうで、怪しく見えてくるのである。

ドラマの過程では、貧困、汚職、麻薬密売、売春、小児性愛といった様々な闇が浮上してくる。それもまた謎を増幅させ、事件の解明を困難なものにしていく。

さらに最初に述べたように時代性が本作の大きなポイントになる。このドラマの時代は1980年。すでに独裁者フランコは亡くなり、独裁政治は終わったものの、その爪痕がまだ残っているのだ。ドラマには独裁政権時代の話がチラチラ出てくるし、「憲兵には逆らわないほうがいい」「今はもう民主主義なんだ」などという当時の時代を感じさせるセリフもたくさん出てくる。

それより何より、いまだに暗く重たい空気感が町全体に漂っている。あちらこちらに罠が張り巡らされ、ほんのわずかなことで粛清されてしまうのではないか。そんなことを想起させるような危険で重苦しい空気が、全体の緊張感をさらに高めていくのである。

また、舞台となる町には湿地帯があり、そこが効果的に使われている。湿地帯が印象的な映画は過去にもあったが、あのジメジメした感じと、一歩間違えばズブズブと足を取られそうな地形が、ますますこの映画をスリリングで重苦しいものにしていくのである。

ストーリー的に、それほどヒネリがあるわけではない。あっと驚くどんでん返しがあるわけでもない。それでも、卑猥で怪しい写真、車についた不思議なマーク、謎の狩猟宿といった効果的なアイテムを次々に投入して、真相を霧の中に彷徨わせる。はてはカーチェイスなども展開され、あの手この手でスリルを持続させ、スクリーンから観客の目を離させないようにする。

真相がようやく見え始める終盤は怒涛の展開だ。狩猟宿の小屋から湿地帯へ、犯人を追う2人の刑事。あわやの果ての結末は?

この映画には、2人の刑事の人間ドラマもさりげなく挟み込まれる。マドリードから左遷されてきた若い刑事のペドロは、もうすぐ子供が生まれることもあり、何とかマドリードに戻りたいと願っている。

一方、ベテラン刑事のフアンは酒好きで、病も抱えているようで常に薬を飲んでいる。そして、彼は力ずくで自白を強要したり、平気で盗聴をしたりもする。そして、そこには独裁政権にまつわる彼の過去が横たわっているのだ。

そのあたりの2人の背景について、くどくどと説明らしいことはしない。さりげなく観客に悟らせる筆致を貫いている。それは全体を通した本作の特徴でもある。

ラストに、ついに事件は解決する。これで大団円かと思いきや、最後の最後に苦いものを突きつける。それはフアンの過去についてであり、それを通して暗い独裁政権時代の面影をドラマに漂わせる。

そのあたりは、おそらくスペインの観客にとっては、我々よりもさらにリアルなものとして捉えられるのではないだろうか。スペインのアカデミー賞にあたるゴヤ賞で作品賞・監督賞など10部門を獲得したというのも、そうしたことが影響しているのかもしれない。

異様な緊迫感に満ちたタッチに圧倒される映画だ。まったく予備知識なしに見ても、それなりに面白いとは思うが、独裁政権のことなども多少は知ってから見ると、なおさら本作の魅力が感じられると思う。

ところで、全国的には再開される映画館も増えてきて、東京もそろそろといったところ。「おウチで旧作鑑賞」シリーズもこのへんで一段落・・・かな?

◆「マーシュランド」(LA ISLA MINIMA/MARSHLAND)
(2014年 スペイン)(上映時間1時間45分)
監督:アルベルト・ロドリゲス
出演:ラウール・アレバロ、ハビエル・グティエレス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、ネレア・バロス、ヘスス・カストロメルセデス・レオン、アデルファ・カルボ、マノロ・ソロ、サルバドール・レイナ、ヘスス・カロサ、フアン・カルロス・ビリェヌエバ、アルベルト・ゴンサレス、マヌエル・サラス、セシリア・ビリャヌエバ、アナ・トメノ
*動画配信サイトにて配信中。松竹よりDVD発売中
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