映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「17歳の瞳に映る世界」

「17歳の瞳に映る世界」
2021年7月25日(日)シネクイントにて。午後2時25分より鑑賞(スクリーン2/C-8)

~10代の予期せぬ妊娠を冷徹なリアリズムで描く

予期せぬ妊娠をした17歳の少女が、親の同意なしに中絶するため、いとこと共にニューヨークへと向かう。

ただそれだけのドラマなのに、「17歳の瞳に映る世界」が第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ)をはじめ数々の映画賞に輝いたのは、まるでドキュメンタリー映画のようにリアルに彼女たちの心情が描けているからに他ならない。

17歳の高校生オータム(シドニー・フラニガン)はある日、自分が妊娠したことを知る。彼女が住むペンシルベニア州では、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。そんな中、同じスーパーでアルバイトをしている従妹のスカイラー(タリア・ライダー)は、オータムの異変に気付き、金を工面して、2人で中絶に両親の同意が要らないニューヨーク行きのバスに乗り込むのだが……。

ドラマは常にオータムの視点から描かれる。劇的な展開はまったくなく、冷徹なリアリズムに貫かれている。

オータムは地元の病院に行くが、中絶の再考を促すビデオを見せられる。しかも、ペンシルベニアでは、親に知られずに中絶手術を受けることができないことを知る。彼女はニューヨークに行くことを決意する。同じバイト先のスカイラーが売り上げの金をくすねて旅費にする。

バスでニューヨークに出た2人は、すぐにその足で中絶手術を受けようとするが、妊娠期間が思っていたよりも長いことがわかり、手術までに3日間を要することになる。その旅の一部始終を描き出す。

オータムは終始無愛想で無口だ。ほとんど感情を表情に出すことはない。

そして彼女の妊娠についての事情も示されない。複雑な家庭環境であることや、学校で彼女が孤独であることが示唆される程度で、それ以上は何があったのか明確にされない。それが観客の想像力と洞察力を刺激する。

ニューヨーク滞在中、彼女たちを取り巻く世界が浮き彫りになる。不慣れな都会に戸惑い、男たちの欲望におびえ、その一方でそれを利用し、それでも弱音を吐かずに自らの意思を通し、そしてただ寄り添う。セリフも最小限で過剰な演出もないが、逆にそれが多くのことを物語る。

ニューヨークでオータムに接する医療関係者はみんな親切だ。誰もがプロフェッショナルな対応に徹している。だから、オータムはなおさら感情を表に出すこともなく、淡々と事態に向き合う。

そんな中、劇中でオータムが唯一、感情を噴出させる場面がある。手術が決まってカウンセラーが義務的な質問をする。答えは4択。映画の原題でもある「Never(一度もない)」「Rarely(めったにない)」「Sometimes(時々)」「Always(いつも)」。

「パートナーに暴力をふるわれたことは?」「性行為を強要されたことは?」といった質問に、その4択で答えていく。答えるうちに冷静だったオータムが言葉に詰まり、ついには涙をあふれさせる。そこに中絶の背後にある事情が垣間見え、彼女の過酷な人生が顔をのぞかせる。

この場面だけでも、オータム役のシドニー・フラニガンのただものでなさが伺える。映画初出演ということだが、空恐ろしいものを持った俳優だと思う。

そして、常に彼女に寄り添いつつ、さりげない優しさを感じさせるスカイラー役のタリア・ライダーの演技も印象深い。何度か2人の間に微妙なヒビが入りかけるのだが、そのたびごとに元に戻る。そのさじ加減が素晴らしい。彼女も長編映画のキャリアは初めてだという。

ただものでないといえば、エリザ・ヒットマン監督も同様だろう。長編3作目にして、冷徹なリアリズムを通して、女性たちの生きる世界を鮮やかに描き出して見せた。ニューヨークの夜の街並みや人々を、巧みに取り込んだ映像も見応えがある。

ラストはさりげないが、2人の友情を確実に刻み付けてドラマは終わる。

地味といえばあまりにも地味だが、その真摯な語り口にたまらなく胸を打たれる映画である。

 

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◆「17歳の瞳に映る世界」(NEVER RARELY SOMETIMES ALWAYS)
(2020年 アメリカ・イギリス)(上映時間1時間41分)
監督・脚本:イライザ・ヒットマン
出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、テオドール・ペルラン、ライアン・エッゴールド、シャロン・ヴァン・エッテン
*TOHOシネマズシャンテ、シネクイントほかにて公開中
ホームページ https://17hitomi-movie.jp/

 


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