映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」
2022年2月11日(金・祝)池袋シネマ・ロサにて。午後1時15分より鑑賞(シネマ・ロサ2/D-9)

~巨大企業と闘い続けた実在の弁護士を映画化。静かな怒りの炎が燃える

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」、観たかったんだよなぁ~。去年の12月に公開になって、日比谷のシャンテシネに行こうと思ったんだけどなぁ~。結局、行けずじまいだったもんなぁ~。

……と嘆いていたら、今頃になって池袋シネマ・ロサでやっているではないか。別に名画座というわけではないのだが、見逃したと思ったこういう映画を、少し遅れて上映してくれたりするからうれしいのだ。

というわけで、さっそく行ってきたのである。

1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロット(マーク・ラファロ)のもとに、ウィルバー・テナントという男がやって来て調査を依頼する。ウェストバージニア州の彼の農場が、大手化学メーカー・デュポン社の工場からの廃棄物によって汚染され、190頭もの牛が病死したというのだ。最初は断ろうとしたビロットだったが、現地の惨状を目の当たりにして調査を決意。やがて、デュポン社に請求した大量の資料と格闘する中で、“PFOA”という謎のワードに辿り着くビロットだったが……。

製作・主演のマーク・ラファロの熱い思いが伝わる映画だ。「アベンジャーズ」シリーズをはじめガチガチのハリウッド映画に出演する彼だが、同時に環境活動家という側面も持つ。そのラファロが、環境汚染問題をめぐって十数年にもわたって巨大企業と闘いを繰り広げた1人の弁護士の記事を読んで心を動かされ、映画化を決意したという。

だが、何しろ相手は超大企業のデュポン社だ。場合によっては訴えられる可能性もある。それでも製作したのだから、相当に気合が入っている。

映画の冒頭は夜の川で若者たちがはしゃぐシーン。だが、その時、デュポン社の人間と思われる警備員が船に乗ってやって来て、彼らを蹴散らし、川に何か薬剤をまくのだ。何やら怪しい滑り出しではないか。

続いて登場する弁護士ロブ・ビロット。彼のもとにウィルバー・テナントという牧場主の男がやって来る。彼の農場が、デュポン社の工場からの廃棄物によって汚染され、大変な被害が出ているというのだ。テナントはその被害を記録したビデオを渡し、調査を依頼する。しかし、ビロットは企業弁護士であり、いわばテナントの敵側の味方。祖母の紹介できたといっても、「はい。そうですか」と引き受けるわけがない。

それでも彼は現地に足を運ぶ。そして、その惨状を目の当たりにして調査を引き受けざるを得なくなる。彼の良心が見過ごすことを許さないのだ。

やがて大量の資料の中から、謎のワード“PFOA”にぶち当たった彼は、それが何なのかを探ろうとする。

このドラマは、主人公の弁護士ビロットをけっしてヒーローとしては描かない。地道な調査を続け、時には暗殺の恐怖におびえ、ストレスにさらされ、それでも真実に迫っていく生身の人間として描く。それが観客の共感を呼んでいく。

監督は「キャロル」「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ。社会派ドラマというと大上段に振りかぶった印象を受けるが、むしろ繊細で簡潔な語り口が光る。実話ということもあって、ドラマチックに盛り上げることもしない。その代わりミステリー的な要素など様々なフレーバーをまぶしてドラマを展開していく。

それにしてもデュポン社である。廃棄物で動物が死んだだけではない。人間にも害をもたらしているのだ。テフロン加工といえばフライパンなどで日本でもおなじみの技術だが、その製造に関わった人々も大きな被害を受けたことが明かされる。特に、ある赤ちゃんの風貌には愕然とさせられる。

まるで静かに怒りの炎を燃やすがごとく、映画は進んでいく。途中からは裁判が進行するが、それもごく地味な展開だ。カタルシスなどどこにもない。

ビロットは何とか集団訴訟にこぎつけるが、調査委員会で住民の血液検査をすることになる。しかし、それにとんでもない時間がかかり、原告住民などからプレッシャーを受けて、ビロットは苦境に立たされる。

そんな中、ビロットの家族のドラマも描かれる。妻(アン・ハサウェイ)は最大の理解者として彼を支えるが、その妻とも険悪な空気が流れるようになる。

そして、信じられないほどの時間を要して検査結果が出る。確かにいくつかの病気とデュポン社による有害物質との間には、関連があることが判明する。ビロットの勝利!? だが……。

最後にこの問題が現在進行形であることを印象付けて、ドラマは終わる。ビロットの戦いは今も続いているのだ。

デュポン社のやってきたこと、いや、今現在やっていることは十分に非難に値する。そんな相手と、何十年にもわたって不正を許さず戦ってきたピロット弁護士には頭が下がる。同時に、それを実名を出して映画化したマーク・ラファロトッド・ヘインズ監督にも拍手を送りたい。この映画が伝えるメッセージは、日本ともけっして無縁ではないだろう。

 

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◆「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」(DARK WATERS)
(2019年 アメリカ)(上映時間2時間6分)
監督:トッド・ヘインズ
出演:マーク・ラファロアン・ハサウェイティム・ロビンス、ビル・キャンプ、ヴィクター・ガーバー、メア・ウィニンガム、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ビル・プルマン
*池袋シネマ・ロサほかにて公開中
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