映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

闘病記その2

手術はやはり6時間かかったという。

「という」などと持って回った表現をしているのは、手術中は全身麻酔でまったく記憶がないからだ。意識が戻ったのもいつだかわからない。だが、相当に体へのダメージがあったのは確かだ。手術後はICU(集中治療室)に入ったのだが、そこでの数日間の記憶もこれまた定かでない。たくさんの妄想(悪夢?)に苛まれ、現実と架空の判断がつかず、曖昧な記憶しか残っていないのである。

ただし、いくつかの断片的なシーンは記憶に強烈に残っている。特に死を前提にしたシーンは鮮明だ。まるで宇宙船のような鏡張りの空間で、青い制服に身を包んだ看護師が行き来している。そのうちに黄泉の国から聞こえてきた(?)と思われる鈴の音がチリンチリンと鳴る。その時には「ああ、死ぬんだな」と確実に思った。「これですべてが終わるんだ」と覚悟した。耳元で看護師が「これからリハビリして良くなるんです」と言った気がするのだが、ただの慰さめの言葉にしか聞こえなかった。

 それ以外にも数々のシーンが蘇る。まるで映画のような場面もあった。悪漢に拉致されて北の国の冷凍室に監禁され身動きが取れないシーン。文化祭間近の学校のような場所でベッドに拘束されたシーン。さらに、そこで危険な薬物を注射されたシーンなどなど。拘束された場面では、そこから必死に脱出を試みるも全て失敗して絶望するのだ。

あれは現実だったのだろうか。いや、実際にそんなことは起きようがないから、現実であり得るはずはない。あとでネットで調べたら、こういうのを「せん妄」と呼ぶらしい。長時間の手術後にはよくある現象とのこと。錯乱、幻覚、妄想状態をおこし、やがて数日して自然に落ち着いていくのだ。

 というわけで、自分の場合にもやがて落ち着いて一般病棟へ移った。どのぐらいICUにいたのかは定かではない。とにかく、自分は無事に生還した。死ななかったのだ。

 ちなみに、錯乱して看護師の腕に噛みついたという噂を聞いたような気がするのだが、それもはたして現実か幻想なのかわからない。
(次回へ続く)