映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「母さんがどんなに僕を嫌いでも」

「母さんがどんなに僕を嫌いでも」
2022年5月4日(水)GYAO!にて鑑賞。

~虐待母にひたすら尽くす無償の愛

おウチで映画鑑賞シリーズ第二弾。2018年公開の「母さんがどんなに僕を嫌いでも」。タイトルから想像するに、息子を邪険に扱う母親との関係を描いたドラマだろうと思ったら、その通りだった。

小説家で漫画家の歌川たいじという人の実話らしい。監督は御法川修。脚本は大谷洋介。

冒頭で主人公の青年、タイジ(太賀)が混ぜご飯を作るエピソードが登場する。混ぜご飯といっても本格的なものだ。それは彼が母から受け継いだ味であることが語られる。ちなみに、本作はタイジの独白の形で進行する。

前半はタイジの子供時代が描かれる。タイジの母・光子(吉田羊)は、外面は良くてまるでご近所のヒロインのようだったが、家の中では夫とケンカが絶えず、そのうっ憤を息子にぶつける最低の母親だった。それでもタイジは、つらい気持ちを悟られまいと、つくり笑いを浮かべながら生きていた。

そんな彼の心のよりどころは、父の経営する工場の従業員の婆ちゃん(木野花)だった。光子に邪険にされるタイジを常に優しく受け止める婆ちゃんを、タイジは実の祖母のように慕う。

光子のやっていることは児童虐待である。その凄惨なシーンもあちこちに出てくる。だが、ドラマは暗いタッチばかりでは描かれない。何しろ子供時代のタイジを演じる小山春朋がハマり役だ。学校でブタとバカにされ、光子に邪険にされても、それを取り繕うようにひたすら明るく笑っている。その姿は健気であると同時にどこかユーモラスだ。

その後、タイジは光子によって1年間施設に預けられる。これもまたひどい仕打ちなのだが、自分をコントロールできない光子が、タイジを手元に置くことを危険と判断したのかもしれない。しかし、そのあたりの心理が十分に描かれないから、ただのひどい母親というイメージが拭えない。

施設から戻ったタイジは、離婚を決意した母に連れられて新しい家に移る。だが、そこでもまたひどい仕打ちが待っている。光子は心身ともにタイジを傷つける。それに耐えられなくなったタイジは17歳で家を飛び出して、1人で生きることを選択する。

いやぁ~、それにしても光子ときたら、とんでもない母親だ。もちろんその行状の背景にはいろいろと理由があるのだが(後半では暴力の連鎖という深刻な家庭環境も語られる)、それを上回る傍若無人な振る舞いである。とても彼女に感情移入などできない。

後半は大人になって一流企業で働くタイジが描かれる。彼は母と縁を切り、一人で生きている。しかし、ふとしたことから劇団に入り、さらに会社の同僚とその彼氏とも親しくなり、彼らと交流するうちに母ときちんと向き合う覚悟をする。

だが、それでも光子はタイジを拒絶する。そんな母からの愛を取り戻すため、タイジはめげずに母に立ち向かっていく。

うーむ、こういうのを無償の愛というのだろうか。光子は相変わらず嫌な奴だし、タイジを邪険に扱う(もちろん今は暴力をふるったりはしないが)。それでもタイジは必死に母に尽くす。いくら親子とはいえ、あまりに寛容な気もするのだが。

ついでに言えば、病に倒れた光子を励ますため、タイジと友人が自分が出演するミュージカルの場面を病院の庭で演じる場面があるのだが、あれはあざとすぎるよなぁ~。

とはいえ、ラスト近くのシーンは感動的。タイジの思いがようやく母に届く。川原の土手でタイジの言葉にかすかに頷く光子。なかなか心に染みるシーンである。

冒頭の混ぜご飯のエピソードとつなげた最後の後日談では、現在のタイジの姿を映し出し、心温まるエンディングに仕上げている。

大人になったタイジを演じる太賀(仲野太賀)は、いかにもこういう役が似合う。常に本心を隠してニコニコ笑いを浮かべているから、感情が激した場面の印象度が余計に際立つ。その瞬間、心の鎧の奥にある本心が露見する姿が、真に迫っているのだ。

感動の実話ではあるものの、母子の心理(特に母親の)が充分に伝わらないから、何となくモヤモヤ感の残る映画だった。親子の関係には他人にはわからない複雑なものはあるのだろうが。

しかし、まあ、悲惨なばかりの話になりがちな素材を心温まるドラマに仕上げた点は素直に評価したい。俳優たちの演技も出色だ。吉田羊はよくこんな役を引き受けたな。

◆「母さんがどんなに僕を嫌いでも」
(2018年 日本)(上映時間1時間44分)
監督:御法川修
出演:太賀、吉田羊、森崎ウィン白石隼也秋月三佳、小山春朋、斉藤陽一郎おかやまはじめ木野花
*動画配信サイトにて配信中
ホームページ http://hahaboku-movie.jp/

 


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