映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「高速道路家族」

「高速道路家族」
2023年4月21日(金)シネマ・ロサにて。午後4時10分より鑑賞(シネマ・ロサ2/D-10)

~ホームレス一家の波乱の運命。前半のコメディータッチから衝撃のラストへ

相続税の申告を税理士に頼まずに一人でやるという暴挙に出た結果、とんでもない事態になったもののようやく終了(まだ何かありそうだけど・・・)。さて、映画でも観るべえかと思った金曜日の夕刻。しかし、ちょうどよい時間の映画がない(涙)。それでもやっと探し当てたのが韓国映画「高速道路家族」。はたして、どんな映画なんでしょう。

高速道路のサービスエリアを転々としながら家族4人でテント生活を送るホームレス一家。父親のギウ(チョン・イル)は駐車場でドライバーに声をかけ、財布を盗まれたから2万ウォンだけ貸してほしいと金をだまし取り、何とか食いつないでいた。そんなある日、以前にだました中古家具店を営むヨンソン(ラ・ミラン)に、別のサービスエリアで偶然に再会し、警察に突き出されてしまう。一方ヨンソンは、残された妻のジスク(キム・スルギ)と子供たちを放っておけず、家へ連れ帰って一緒に暮らすのだが……。

「パラサイト 半地下の家族」などと同様に、韓国の格差社会を背景に据えたドラマだ。家族が犯罪を糧にして生きるという点では、是枝裕和監督の「万引き家族」とも似た設定である。新人のイ・サンムン監督が自作のオリジナル脚本を映画化した。

ホームレス一家の日常を軽妙に描き出した前半はコメディータッチ。まるでピクニックを楽しむかのようにサービスエリアを転々とし、巧みな話術でドライバーから2万ウォンをかすめ取る(いわゆる寸借詐欺)ギウとそれに協力する妻、そして2人の子供の姿が何とも微笑ましくてつい笑ってしまう。

だが、観ているうちにだんだん腹が立ってきた。子供のうち上の女の子は9歳。しかし、学校にも行っていない。ギウは自分たちで勉強を教えているというが字も書けない。「学校に行きたい」と訴えてもギウははぐらかす。

これってある種の児童虐待じゃないの? どれだけ家族4人で楽しい生活を送ろうと、子供を学校に通わせないのはまずいでしょ。それをやっちゃおしまいでしょ。

おまけに、なんと妻のジスクは妊娠していたのだ。それなのにお金がないから病院にも行っていない。どこで産むつもりなのだ? 出産費用も賃借詐欺で調達するのか?

というわけで、父親として、夫としてやるべきことを放棄しているギウに猛烈に腹が立ってきたのである。

だが、実はそれには裏があったのだ。彼はある出来事がトラウマになりマトモではいられなくなったのである。そのことが後半になって明らかになる。

そして、その後半には予想もできない出来事が待ち受けていたのだ!

発端は、ギウが以前にだました中古家具店を営む中年女性のヨンソンと再会したこと。彼女は警察に通報し、ギウは捕まってしまう。残された家族を可哀そうに思ったヨンソンは、自宅に連れ帰って面倒を見ることになる。どうやら、その背景には彼女が家族を失ったことがあるらしい。

後半は、前半のコメディータッチから一転してシリアスな展開に突入する。ヨンソンのもとで暮らすようになった妻と子供たちは、それまでのホームレス生活とは一変した生活を送る。食べ物の心配をすることもなく、野外で寝て腰を痛めることもない。ジスクは病院に連れて行ってもらう。子供たちも楽しそうに暮らす。特に姉は待望の学校に通えることになる。

その間にはヨンソンと夫のドファン(ペク・ヒョンジン)との仲違いや、その後の和解なども描かれるのだが、途中まではそれほど波乱のない展開だ。だが、そこで警察に捕まっていたギウが逃走したことから、事態は思わぬ方向に進む。

そこではトラウマを抱えたギウが精神的な混乱に陥る姿が描かれるのと同時に、離ればなれになった一家の過酷な運命が描かれていく。そして、ジスクは究極の選択を迫られる。今の安定した生活を取るのか、それとも……。

終盤。そこで描かれるのは衝撃的な出来事だ。誰がこんな展開を予想しただろうか。力技といってもいい壮絶な場面で観客の感情を揺さぶる。その後には、平穏な後日談が描かれるのだが、エンドロールの前には再びあの悲劇的な場面を登場させて、観客の心に微妙な余韻を残す。

この映画のことをスリラーと表現したり、サスペンスと表現している向きもあるようだが、それとも何か違う気がする。とにかく心をざわつかせる作品だ。前半がコミカルなだけに、終盤の衝撃的な展開が頭にこびりついて離れない。

韓国の格差社会がドラマの背景にあることはすでに述べたが、それだけでなく家族の問題、人間の善意と悪意など様々なテーマ性を持つ作品だと思う。そんなマジメなテーマ性とエンタメ性を融合させている。すべてを描かずに、観客の想像力を喚起させる余白を残しているのも大きな特徴だ。

キャストも派手さはないが、いずれも実力派揃い。2人の子供もとびっきり可愛らしくて、その視点を取り入れたことでドラマに厚みが生まれた。

新人監督らしからぬ腰の据わった一作だ。前半と後半のあまりの落差、衝撃的なラストなど色々と賛否を呼びそうだが、一見の価値はある映画だと思う。観終わって私の心に残ったものは、時間が経つにつれてますます大きくなっていくのであった。

◆「高速道路家族」(HIGHWAY FAMILY)
(2022年 韓国)(上映時間2時間8分)
監督・脚本:イ・サンムン
出演:チョン・イル、ラ・ミランキム・スルギ、ペク・ヒョンジン、ソ・イース、パク・タオン
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ https://kousokudouro-kazoku.jp/

 


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