映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「1秒先の彼」

「1秒先の彼」
2023年7月13日(木)TOHOシネマズ池袋にて。午後1時30分より鑑賞(スクリーン4/D-8)

~奇想天外な台湾映画を山下敦弘監督とクドカンがリメイク

チェン・ユーシュン監督の台湾映画「1秒先の彼女」(2020年)は、何事も1秒早いヒロインと1秒遅い青年の恋をユニークな切り口で描いたラブストーリー。日本でも話題になった。それを山下敦弘監督と宮藤官九郎脚本のコンビでリメイクしたのが「1秒先の彼」だ。

この映画、オリジナルとの最も大きな違いは男女の設定を逆転していること。つまり、何事も1秒早い男と1秒遅い女のドラマにしているのだ。

京都に暮らす郵便局員ハジメ岡田将生)は、人よりワンテンポ早いせいで失敗ばかりしてきた。そんなある日、ストリートミュージシャンの桜子(福室莉音)に出会い、たちまち恋に落ちる。必死にアプローチして、日曜日の花火大会でのデートを約束するハジメ。ところがデート当日に目覚めると、なぜか月曜日になっているではないか。「大切な1日」はどこに消えてしまったのか。やがてハジメは、毎日郵便局にやってくる人よりワンテンポ遅い大学生のレイカ(清原果耶)が、秘密の鍵を握っていることを知る……。

正直、この映画の話を聞いた時は悪い予感がした。脚本のクドカンはどうも私と相性が悪い。映画で彼の監督作品のほとんどは、面白いのは面白いけれどそれだけという感じがして、物足りなく思えてしまうのだ。

しかし、まあ、今回は脚本だけ。しかも、監督は私の好きな山下監督とあって(「リンダリンダリンダリンダ」「天然コケッコー」「もらとりあむタマ子」は傑作!)観に行ってみることにした。

で、実際に観てみたら、これがけっこう良いではないか。リメイクものとしては上出来の部類だと感じた。

その理由の第一は京都に舞台を持ってきたことだ。時代を超越したような独特の雰囲気を持つ街だけに、この映画のようなちょっと現実離れした話にはピッタリ。重要な場所を天橋立にしたことも、なかなか気の利いた設定だ。京都弁の持つ味わいも、このドラマに新たな魅力を加えている。

そして、キャスティングが絶妙なのもこの映画の魅力。主役の2人はもちろん、脇役たちも有名無名に関わらず個性派揃いで観客を楽しませる。

まず前半は主人公ハジメの日常をコミカルに描き、笑いをとる。クドカンらしく小ネタのギャグもかましつつ、見た目はいいものの、おっちょこちょいで中身が薄くて、女の子にもてない主人公を巧みに描写する。山下監督は、もともとこういうユル~い笑いを得意にしているので、本領発揮というわけだ。

岡田将生の演技も良い。これまであまりコメディの印象はなかったが、こういう演技もできるのだと感心。自意識過剰で京都弁でしゃべり倒す主人公を巧みに演じている。

そして、主人公の妹と彼氏を演じた片山友希としみけんのチャラい演技も爆笑もの。母親を演じた羽野晶紀のボケっぷりともども、山下監督のもとで生き生きとコメディのセンスを発揮している。しかし、まあ、羽野晶紀岡田将生の母親役をやるようになったのねぇ。時間の経つのは早いなぁ。

その後、主人公のハジメストリートミュージシャンの桜子に恋をする。何事も1秒早い彼らしく猪突猛進。ついにデートの約束を取り付けるのだが、肝心のその日が消えてしまう。

ここでも主人公の暴走ぶりが笑える。同時に、桜子を演じた福室莉音の不思議な魅力が効果を発揮している。彼女が歌う歌が、「京都~、大原、三千院~」でおなじみの「女ひとり」だというのがいい。

ハジメはその歌をラジオにリクエストする。そのラジオ番組のDJとハジメとのやりとりも笑える。DJの声は先日亡くなった笑福亭笑瓶。いい仕事してるなぁ。彼は写真館の店主としても登場する。

というわけで、主人公は消えた1日の謎を探る。

そこから後半は視点が変わって、何事も1秒遅い女子大生レイカの視点でドラマが描かれる。ここからはかなりオリジナルに近い展開で、笑いも抑えめになる。ただし、男女を逆転させたことにより、オリジナルに強かったストーカー臭は弱まっている。

清原果耶が奥手で引っ込み思案の女のコを好演している。思ったことをうまく話せず、それでも一途な思いを抱いて行動する。そんな役がハマリ役だ。主人公と彼女の関係も次第に明らかになる。

そして例のアレですな。オリジナルにあった「世界が止まっちゃう」ヤツ。ただし、そこで荒川良々のバス運転手を登場させたのが新機軸。相変わらずとぼけた味を出して笑わせてくれます。清原との掛け合いも面白い。

まあ、この設定を含めて、冷静に考えればツッコミどころがたくさんあるけど、それでも文句なしに面白いというのがオリジナルの良さ。クドカンも山下監督もそんなオリジナルの大ファンだというだけに、オリジナルをリスペクトしつつ、日本流(京都流?)のアレンジを加えた感じだ。

交通事故から、新たな郵便局でのナイスなエンディングになだれこむラストも、オリジナルにほぼ忠実。でも、ラストの余韻はこちらの方が深いかな。

この映画でクドカンらしさが最も発揮されているのは、登場人物の命名かもしれない。主人公は皇一、ヒロインは長宗我部麗華、バス運転手は釈迦牟尼仏憲(ミクルベ)って、これだけで笑っちゃうんですけど。

◆「1秒先の彼」
(2023年 日本)(上映時間1時間59分)
監督:山下敦弘
出演:岡田将生、清原果耶、福室莉音、片山友希、しみけん、笑福亭笑瓶、松本妃代、伊勢志摩、柊木陽太、加藤柚凪、朝井大智、山内圭哉羽野晶紀加藤雅也荒川良々
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://bitters.co.jp/ichi-kare/

 


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