映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「リアリティ」

「リアリティ」
2023年12月8日(金)シネ・リーブル池袋にて。午後3時10分より鑑賞(シアター1/F-7)

~FBIの尋問の音声から再現したドラマ。その緊迫感に圧倒される

来年はアメリカ大統領選挙がある。もしかするとまた大統領になる可能性があるトランプ。彼が当選した2016年のアメリカ大統領選挙にロシアが介入し、それがトランプ当選の一因になったといわれる。それをめぐる事件を描いた映画が「リアリティ」だ。

映画の冒頭、トランプ大統領がロシア政府と自身の2016年大統領選挙キャンペーンとの共謀に関する捜査を妨害するために、ジェームズ・コミーFBI長官を解任したニュースが流れる。それを見ているのが、この映画の主人公のリアリティ・ウィナー(シドニー・スウィーニー)だ。

25歳のリアリティは元米空軍の軍人で、現在は米国家安全保障局NSA)の契約社員だった。彼女が買い物から帰宅すると、見知らぬ2人の男性に声をかけられる。FBI特別捜査官のガリック(ジョッシュ・ハミルトン)とテイラー(マーチャント・デイヴィス)。2人は気さくにリアリティに語りかける。だが、それはある重大な事件の尋問だった……。

タイトルのリアリティは主人公の名前だが、この映画の特徴も表している。それというのも、この映画は実際の尋問の音声記録からほぼ完全に再現したものなのだ。この映画のセリフは、すべてFBIの90分弱の音声記録の会話をそのまま使っている。

最初のうちは、何ということもない話が繰り広げられる。リアリティとFBI特別捜査官のガリックが、リアリティの飼い犬の話など世間話の域を出ない話をする。合間にはガリックの相棒のテイラーも加わる。捜査官たちの態度は実にフレンドリーで、威圧的なところはまったくない。

ただし、ガリックは「捜査令状を持っている」「令状を見せようか?」などと口にする。家の中にも入らせてくれない。他の捜査官も大勢集まってきて、家の周りに黄色テープを張り、家の中を捜索する。当然リアリティは、これが何らかの捜査であることを理解している。それでも捜査官たちの温和な態度に、彼女のほうもリラックスして答える。

ちなみに、ガリック捜査官は令状を持っているというものの、なかなかそれを示してくれない。これはもしかしたら、FBIの尋問のテクニックの一つなのだろうか。いずれにしても、彼らの会話は狡猾だ。それに対して、リアリティもなかなかしたたかだ。両者の攻防戦はまだ序の口だ。

映像的な工夫もある。会話の途中でところどころに録音された音声の波形がスクリーンに映しだされる。それを書き起こした文字も映る。また、会話の内容に関係するアイテムなどのショットも挿入される。さらに不安定な映像、不穏な音楽も相まって緊張感が否が応にも高まる。

その後、彼らはようやく家に入る。使っていないという奥の部屋で、リアリティはガリックとテイラーの尋問を受ける。そこはほとんど家具のない殺風景な部屋だ。椅子もない部屋で3人は立ったまま話をする。そんな環境がますます観る者の心をざわつかせ、緊張感を高める。

そこでガリックたちは、相変わらずフレンドリーでリアリティを慮った尋問をする。とはいえ、何しろ両者が腹に一物がある。ガリックらは世間話のような話をしつつ、最終的にはリーク事件の真相を聞き出したい。リアリティは自分が何をしたのかを理解しながら、それを秘密にしておきたい。両者の虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。

尋問は次第に事件の核心に迫り始める。会話は徐々に不穏な空気を漂わせるようになる。それとともにリアリティは次第に窮地へと追い込まれていく。

この映画のもとになった尋問の音声記録は、裁判で公開されたものとのこと。その際には表に出すとまずい部分については、音声が消されている。文字起こしでは黒塗りにされている。その部分になると、リアリティや捜査官の姿が画面から消える。それもまた、不気味な緊張感をドラマにもたらしている。

そして、ついにリアリティは事件の真相を口にすることになる。リアリティは逮捕される。

この映画では、リアリティを国家機密をリークした犯罪人としてこき下ろすことはしない。かといって、彼女を国民の知る権利を行使したヒロインとして持ち上げることもしていない。リアリティもFBI捜査官もどちらも正義とも悪とも決めつけない。

その代わり、尋問後の映像で作り手たちの意図がわかる。それはまるで大物スパイを摘発したかのようなトランプ政権の記者会見だ。また、マスコミも彼女を極悪人のように報じる。それに対して、このリークが市民に利益をもたらしたとして、彼女を擁護する識者も現れる。

このあたりからマスコミや権力者のあり方、国家機密と市民の知る権利の問題など、いくつもの難問を観客に提示していることがわかる。強いメッセージこそないものの、硬派な社会派ドラマであることは間違いがない。もちろん実録物のサスペンスとしても一級品の映画だ。

主役のリアリティを演じたシドニー・スウィーニーは、少しずつ変化していくリアリティの心情を繊細な演技で表現していた。絶品の演技だ。捜査官役のジョシュ・ハミルトン、マーチャント・デイヴィスともども卓越した演技力である。

監督は、これが長編デビューとなるティナ・サッター。もともと演劇畑の人のようで、本作も彼女が手がけた舞台劇が原作とのこと。いずれにしても、約90分弱の音声記録から、これだけのドラマを作ったのだからスゴイ。

◆「リアリティ」(REALITY)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間62分)
監督:ティナ・サッター
出演:シドニー・スウィーニー、ジョシュ・ハミルトン、マーチャント・デイヴィス、ベニー・エレッジ
*シアター・イメージフォーラムシネ・リーブル池袋ほかにて公開中
ホームページ https://transformer.co.jp/m/reality/

 


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