映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ロイヤルホテル」

「ロイヤルホテル」
2024年8月8日(木)ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午後2時55分より鑑賞(スクリーン1/E-10)

~バーでバイトする2人が受けるセクハラ、パワハラ攻撃。男性優位社会の現実をリアルに反映

 

「#MeToo運動」をきっかけに、女性の地位もだいぶ向上したとはいえ、まだまだ男性優位社会の色は濃い。そんな現状を告発する映画がたくさん作られている。

去年日本で公開されたキティ・グリーン監督の「アシスタント」は、憧れの映画業界に飛び込んだものの、その闇に気づいて苦悶する女性を描いた社会派ドラマ。そのグリーン監督が「アシスタント」の主演ジュリア・ガーナーと再びタッグを組んで、男性優位社会の実態を描いたのが「ロイヤルホテル」だ。

旅行でオーストラリアを訪れた親友のハンナ(ジュリア・ガーナー)とリブ(ジェシカ・ヘンウィック)。だが、お金に困りワーキングホリデーの事務所に駆け込む。そこで紹介されたのは砂漠の炭鉱町にあるパブ「ロイヤルホテル」。住み込みのアルバイトを始めた2人だが、そこに待っていたのは店長や客たちによるパワハラやセクハラ、女性差別。楽観的なリブは店になじんでいくが、ハンナは不安が募り精神的に追い込まれていく……。

この映画は、女性バックパッカー2人がオーストラリアのパブで働く中でハラスメントを受ける様子を記録した、2016年のドキュメンタリー映画Hotel Coolgardie」を基にしたもの。例えば、実際は繁華街にあったパブを砂漠にポツンと建つ設定にするなど、いろいろな改編はされているものの、起きていることは結構似ているというから恐ろしい。

映画のテイストはスリラー映画。不穏な音楽が常に鳴り響く中で、ドラマが進行する。ハンナとリブは普通のバイトのつもりで砂漠の町のバーにやってくる。だが、最初から様子がおかしい。到着早々、2階にある自室でシャワーを浴びようとするが、お湯が出ない。元栓を開けたらようやく水が出るようになったが、そこに店長が飛び込んでくる。水を溜めている池(?)の水位が下がるから、やめろと言うのだ。いかにもヤバそうな態度で。

店がオープンしても彼女たちの受難は続く。バーテンダーとして普通に接客すればいいと思っていたのに、粗野な客たちが2人に好奇な視線を向けて、卑猥な話を繰り広げる。店長も飲んだくれで、あれやこれやとパワハラ攻撃を展開する。ちょっとマジメそうな青年も、ひと皮むけばアラアラアラ。酔っぱらえば酔っぱらうほどたちが悪くなって、執拗に2人に迫るバカ客もいる。

特に怖いのが何度か出てくるドアを叩くシーン。ハンナが拒絶しているのに、やつらは平気でどんどんドアを叩いて、中に入れろと要求するのだ。実際に目にするとかなり怖いですゾ。

ここで描かれるセクハラやパワハラの実態はあまりにもリアルだ。実話を基にしただけに、けっして絵空事とは思えない。「もしかしたら、私たちの周りでもこういうことが起きているのではないか?」と感じさせるようなリアルさがある。おかげで、何だか居心地が悪くなってくる。映画館でなければ途中で見るのをやめてしまうかもしれない。荒唐無稽な話だったら、こうはならないだろう。

その分、ドラマ的に派手さや盛り上がりに欠けるのも事実。客や店長の蛮行が大事件に発展することもない。しかし、それだからこそ「なんじゃこりゃ?」という不穏さがどんどん募り、目が離せなくなってくる。緊張感も半端ではない。不快で見るに堪えないが、不穏でスリリングで目が離せないという不思議な感覚を味わってしまった。

セクハラ、パワハラに加え金銭面でも2人は困難に直面する。肝心のバイト代がもらえるかどうか怪しいのだ。飲んだくれの店長は、金にもだらしなく、食材業者にも未払金を抱えているらしい。

そんな中、厨房係の女性だけがまともに見える。寡黙でとっつきにくいが、店長にもズバリとものを申し、2人にもちゃんと給料を払うように直言する。だが、あることから店長が負傷し、彼女も店を去ることになる。

こうして店はいよいよ混乱のるつぼ。そんな中で、ドラマ的に出色なのがハンナとリブを対立の図式に持ち込んでいるところだ。ハンナは不快で不安で精神的に追い込まれていくのに対して、リブは環境になじんでセクハラやパワハラも店の文化だといって気にしない。ちょうど彼女たちの前任者がそうだったように、客たちと飲んだくれて大騒ぎする始末。

さて、その混乱の果てに何が起きるのか。先ほど大きな事件は起きないと言ったが、ラストだけは違う。それはハンナが悪夢を決然と振り払うことを選択したことを意味する。カタルシスを味わうとともに、グリーン監督の強い意志をそこに感じた。蛇を象徴的に使った仕掛けも興味深い。

ハンナとリブを演じたジュリア・ガーナーとジェシカ・ヘンウィックに加え、店長役のヒューゴ・ウィーヴィング(「マトリックス」のエージェント・スミス役でおなじみ)も好演。現実にいそうだもんなぁ。あんな店長。

楽しかったり、感動したりする映画が好きな人にはおススメしないが、十分に観る価値のある映画だ。ここには現代社会の実態が詰まっている。

聞けばグリーン監督は「アシスタント」とこの「ロイヤルホテル」に続いて、もう1本、女性蔑視、男性優位社会を告発する映画を撮る構想があるという。そのぐらいしないと、このくそったれな(汚い言葉で失礼!)世の中は変わらないということなのだろう。

◆「ロイヤルホテル」(THE ROYAL HOTEL
(2023年 オーストラリア)(上映時間1時間31分)
監督:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー、ジェシカ・ヘンウィック、トビー・ウォレス、ヒューゴ・ウィーヴィング、ハーバート・ノードラム、ダニエル・ヘンシュオール、ジェームズ・フレッシュヴィル、アースラ・ヨビッチ
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
ホームページ https://unpfilm.com/royalhotel/

 


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